昔は気持ちよく歌えていた曲なのに、最近は高音になると苦しい。原曲キーで歌おうとすると、つい声を張り上げてしまい、歌い終わった後に喉が痛くなる。

60代になると、このような悩みを感じる方は少なくありません。

結論から言うと、60代で歌うときに張り上げて喉が痛くなるのは、年齢のせいだけではありません。姿勢の崩れや呼吸筋の弱まりによって、声を出す支えが不安定になり、喉の力で高音や声量を出そうとしていることが大きな原因です。

歌声は、「息を出す」「声帯が振動する」「喉や口の空間で響く」という流れで作られます。つまり、呼気、声帯、共鳴のバランスが大切です。

このバランスが崩れると、声を遠くへ届けようとしているつもりでも、実際には喉を締めて押し出すような歌い方になりやすくなります。その結果、張り上げた後に喉がヒリヒリしたり、痛みが残ったりします。

この記事では、60代の方が歌で張り上げて喉が痛くなる原因を、年齢による変化だけで片づけず、呼吸、声帯、共鳴のつながりから分かりやすく説明します。無理に強く歌う練習ではなく、喉を痛めずに歌いやすくするための考え方をお伝えします。

60代で歌うと張り上げて喉が痛くなるのはなぜか

60代で歌うと張り上げて喉が痛くなる主な原因は、声を支える力が弱くなり、喉だけで声を出そうとしてしまうことです。

これは、「声が出なくなった」「歌が下手になった」という単純な話ではありません。体の使い方が変わり、声の出し方のバランスが変わっている状態です。

若い頃は、深く考えなくても息が流れ、高音も勢いで出せていたかもしれません。しかし、年齢を重ねると、姿勢が少し丸くなったり、胸や背中まわりが硬くなったりします。すると、歌うときに必要な息の流れが安定しにくくなります。

息の流れが不安定になると、声帯に送られる呼気も安定しません。声帯とは、喉の中で息を受けて振動し、声のもとを作る部分です。ここに安定した息が届かないと、高音や大きな声を出すときに、喉まわりの筋肉で無理に補おうとします。

その結果、喉が締まり、声を押し出すような発声になります。これが、喉が痛くなる張り上げにつながります。

ここで大切なのは、張り上げそのものをすべて悪者にしないことです。歌の表現として、声に勢いや強さが必要な場面はあります。ただし、歌った後に喉が痛くなるほど押している場合は、発声のバランスが崩れているサインです。

60代の方が歌うと喉に力が入りやすい理由については、こちらの「60代の方が歌うと力む原因とは?喉に力が入る理由と改善の考え方」も関連します。ただし、この記事では力み全般ではなく、張り上げた結果として喉が痛くなる状態に絞って見ていきます。

 

喉が痛くなる流れは「呼気→声帯→共鳴」で考える

歌うときの声は、喉だけで作られているわけではありません。

まず息が流れ、その息を受けて声帯が振動します。そして、声帯で生まれた原音が、咽頭腔や口腔などの空間を通ることで、歌声として整っていきます。咽頭腔とは喉の奥の空間、口腔とは口の中の空間です。難しく考えすぎなくて大丈夫です。声が響くための通り道、と考えると分かりやすいです。

この流れを簡単に言うと、「呼気→声帯→共鳴」です。

60代で張り上げて喉が痛くなる場合、この流れの最初にある呼気が不安定になっていることがよくあります。姿勢が崩れると、息を深く使いにくくなります。胸や背中、お腹まわりが硬くなると、歌に必要な息の支えも作りにくくなります。

息の支えが弱くなると、声帯は安定して振動しにくくなります。すると、高い音や大きな声を出したいときに、喉の力で声帯を強く閉じようとします。

声帯を強く閉じすぎると、声は一時的に大きくなったように感じます。しかし、喉への負担は増えます。さらに喉頭まわりも固まりやすくなります。喉頭とは、声帯が入っている部分です。この周辺が固まると、声が自由に動きにくくなります。

そしてもう一つ大切なのが、共鳴です。

声帯で生まれた原音は、そのままでは歌声として十分に整っていません。喉の奥や口の中の空間を通ることで、響きが加わり、声として聞こえやすくなります。

しかし、姿勢の崩れや喉まわりの緊張、口や喉の使い方によって、この共鳴の空間が狭くなりやすいことがあります。すると、声が細く感じられます。

声が細く感じられると、「もっと強く出さないと聞こえない」と思いやすくなります。その結果、息をたくさん出そうとしたり、喉を締めたり、原曲キーのまま無理に高音を出したりします。

つまり、60代で歌うと張り上げて喉が痛くなる流れは、原因が一つだけではありません。

姿勢や呼吸の支えが不安定になる。だから声帯が安定しにくくなる。声帯が安定しないから喉の力で補う。喉の力で補うから共鳴が狭くなり、声が細く感じる。声が細く感じるから、さらに張り上げる。

このつながりで考えると、喉の痛みは「もっと根性で歌えばよい」という問題ではないことが分かります。

 

よくある場面別に見る、張り上げて喉が痛くなる原因

60代の方が張り上げて喉が痛くなる場面として多いのが、昔よく歌っていた曲を原曲キーのまま歌う場面です。

若い頃に歌えていた曲は、思い入れもあります。そのため、キーを下げると負けたように感じる方もいるかもしれません。しかし、今の体と声に合わない高さで歌い続けると、高音のたびに喉で押す癖がつきやすくなります。

原曲キーは、歌手本人の声や体に合わせて作られていることが多いです。聴いていると自然に聞こえても、自分の声に合うとは限りません。60代で歌いやすくするには、原曲キーにこだわるよりも、今の声が楽に響く高さを選ぶことが大切です。

次に多いのが、大きな声を出そうとしたときです。

「声量を出すには、息をたくさん出せばよい」と思われがちですが、これは注意が必要です。息を増やすだけでは、声が安定するとは限りません。むしろ、息の勢いで声帯を押しすぎると、喉が疲れやすくなります。

声量は、息の量だけで決まるものではありません。声帯が安定して振動し、その声が喉や口の空間で響くことで、無理なく通りやすい声になります。

つまり、大きく歌おうとして喉が痛くなる方は、声量そのものが足りないというより、響きで声を届ける感覚が弱くなっている可能性があります。

また、カラオケで長く歌った後に喉が痛くなる場合もあります。この場合は、張り上げに加えて、曲数、休憩の少なさ、キーの高さ、マイクの使い方なども関係します。

カラオケ全体で疲れやすい原因については、「ご高齢者の方がカラオケで疲れる原因と改善法|今日からできるボイストレーニング」で詳しく扱えます。この記事では、その中でも特に「張り上げて喉が痛い」という部分に絞ります。

もう一つ見落としやすいのが、声が細くなったように感じる場面です。

声が細くなると、本人は「声が弱くなった」と感じます。そこで、もっと強く出そうとします。しかし、共鳴がうまく使えていない状態で強く出そうとすると、声は響くより先に喉で押されてしまいます。

60代の歌声で大切なのは、若い頃と同じ勢いで押すことではありません。今の体に合わせて、息、声帯、響きの通り道を整えることです。

「張り上げは悪い」「キーを下げるのは負け」は誤解です

歌で喉が痛くなると、「張り上げは絶対に悪い」と考えてしまう方がいます。

しかし、強い声や盛り上がる声がすべて悪いわけではありません。問題は、喉が痛くなるほど、喉だけで声を押し出していることです。

歌には感情があります。サビで少し声に勢いが出ることもあります。気持ちが入って声が前に出ることもあります。それ自体は自然なことです。

ただし、毎回同じ場所で喉が痛くなる場合や、高音のたびに首や肩に力が入る場合は、発声の使い方を見直す必要があります。

もう一つの誤解は、キーを下げることです。

60代の方の中には、「キーを下げると格好悪い」「昔歌えていた曲だから、下げたくない」と感じる方もいます。そのお気持ちはとても自然です。

ですが、キーを下げることは負けではありません。むしろ、長く楽しく歌い続けるための調整です。

歌いやすいキーにすると、喉を押さなくても声が出やすくなります。息の流れも安定しやすくなり、共鳴も使いやすくなります。その結果、無理に張り上げなくても、声が前に届きやすくなります。

原曲キーにこだわって喉を痛めるより、自分の声が一番よく響く高さで歌う方が、聴く人にも自然に届きます。

声の変化そのものについて深く知りたい場合は、「声の老化の真実」が関連します。ただし、ここでは声の老化全般ではなく、張り上げて喉が痛くなる場面に必要な範囲だけを押さえておきましょう。

 

喉を痛めずに歌いやすくする改善の考え方

60代で張り上げて喉が痛くなる場合、最初に意識したいのは「強く歌う練習」ではありません。

まずは、小さい声で、短時間で、痛みのない範囲で声を出すことです。

喉が痛くなる方ほど、「もっと声を出さなければ」と考えやすいです。しかし、喉が痛い状態でさらに声を出すと、負担が重なります。痛みがある時は練習をせず、声を休ませることが大切です。

痛みがない日に行うなら、リップロールは取り入れやすい練習です。リップロールとは、唇を軽く震わせながら息と声を出す練習です。唇が震えるには、息が強すぎても弱すぎても難しくなります。そのため、息を押しすぎない感覚をつかみやすくなります。

ハミングも使いやすい練習です。口を閉じて「んー」と軽く響かせる方法です。大きな声を出す必要はありません。鼻や口の奥に軽く響きを感じる程度で十分です。

ただし、ハミングでも喉が痛い場合は中止してください。練習は、痛みを我慢して行うものではありません。

小さな声での発声も大切です。いきなりサビを大きく歌うのではなく、話し声より少し伸ばすくらいの感覚で、楽に出せる高さから始めます。高音を出す練習より先に、喉を押さずに声を出す感覚を取り戻すことが大切です。

キー調整も、改善法の一つです。

高音で毎回張り上げてしまう曲は、半音から一音下げるだけでも、喉の負担が大きく変わることがあります。カラオケでは、原曲キーに合わせるより、自分が最後まで楽に歌える高さを探してみてください。

そして、練習時間は短くてかまいません。最初から長く歌うよりも、喉が疲れる前に終える方が安全です。特に60代の方は、声を鍛えることより先に、声を痛めない使い方を覚えることが大切です。

ボイストレーナーとして15年指導している現場でも、張り上げて喉が痛くなる方は、声が弱いというより、声の出し方の順番が崩れていることが多くあります。息を強くするだけではなく、声帯が安定し、共鳴で声が通る状態に近づけることが大切です。

60代からのボイストレーニング全体について知りたい方は、「60代からボイストレーニング始めても効果があるのか?年齢を重ねても輝く歌声を手に入れる方法」も参考になります。この記事では、その中でも喉を痛める張り上げを防ぐ考え方に絞っています。

 

喉が痛い時に練習してもよいのか

喉が痛い時は、基本的に歌の練習は休んでください。

「少しだけなら大丈夫」「軽い発声ならよいのでは」と思うかもしれませんが、痛みがある時点で、喉には何らかの負担がかかっています。その状態でリップロールやハミングをしても、回復を遅らせる可能性があります。

特に、歌うたびに同じ場所が痛くなる場合、翌日まで痛みが残る場合、声がかすれる状態が長引く場合は、無理に練習を続けない方がよいです。

また、急に声が出にくくなった、声の変化が続いている、飲み込みづらさがある、喉の違和感が長引くといった場合は、発声練習で解決しようとせず、専門機関に相談してください。

この記事では、医療的な診断や治療については扱いません。発声の使い方として見直せる範囲をお伝えしています。痛みや不調が続く場合は、自己判断せず、体の状態を確認することが大切です。

 

まとめ

60代で歌うと張り上げて喉が痛くなるのは、年齢のせいだけではありません。

姿勢の崩れや呼吸筋の弱まりによって息の支えが不安定になり、声帯に安定した呼気が届きにくくなります。その結果、高音や大きな声を出すときに喉の力で補いやすくなります。

さらに、喉や口の空間がうまく使えず共鳴が狭くなると、声が細く感じられます。すると、「もっと出さないと聞こえない」と感じ、さらに張り上げやすくなります。

つまり、喉が痛くなる張り上げは、「呼気→声帯→共鳴」のバランスが崩れているサインです。

改善するには、強く歌う練習を増やすのではなく、小さい声、短時間、痛みのない範囲から始めることが大切です。リップロールやハミング、無理のないキー調整も役立ちます。

そして、原曲キーを下げることは負けではありません。今の声に合う高さで歌うことは、喉を守りながら歌を楽しむための大切な工夫です。

60代の歌声は、若い頃と同じ出し方に戻すことだけが正解ではありません。今の体と声に合った発声へ整えることで、張り上げに頼らず、喉にやさしく歌いやすい声を目指せます。

 

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