ミュージカル曲を歌っていると、ロングトーンの途中で息が足りなくなったり、声が細くなったり、最後に音程が下がってしまうことがあります。
そのたびに「自分は喉が弱いのかな」「肺活量が足りないのかな」と感じる方も多いと思います。
しかし、ミュージカルでロングトーンが続かない原因は、喉の弱さではありません。
多くの場合、呼吸筋がまだ十分に使えておらず、息を安定してコントロールできていないことが大きく関係しています。
ロングトーンを安定させるには、ただ息をたくさん吸うのではなく、必要な息を必要な分だけ使える状態を作ることが大切です。
この記事では、ミュージカルでロングトーンが続かない原因を、呼吸筋と息のコントロールの視点から解説し、安定したロングトーンにつなげる練習の考え方までお伝えします。
目次
ミュージカルのロングトーンが普通の歌より難しい理由
ミュージカルのロングトーンが難しいのは、ただ音を長く伸ばせばよいわけではないからです。
歌いながら演技をし、身体を使い、感情を表現しながら、音程・声量・声の響きを保つ必要があります。
そのため、一般的なロングトーン練習ではできても、ミュージカル曲の中に入ると急に続かなくなることがあります。以下で詳しく解説します。
ミュージカルでは歌・演技・身体の動きが同時に起きる
ミュージカルのロングトーンが続きにくい理由は、歌だけに集中できない場面が多いからです。
一般的な歌唱練習では、姿勢を整え、呼吸に集中し、音をまっすぐ伸ばすことができます。しかし、ミュージカルではそこに演技が加わります。
登場人物としてセリフを言い、感情を動かし、視線を向け、身体を使いながら歌います。場合によっては歩いたり、振付をしながらロングトーンを出すこともあります。
この時、身体の使い方が少し変わるだけで、呼吸筋が働きにくくなります。
呼吸筋がうまく働かないと、息を一定に使うことが難しくなります。ロングトーンは、息を一気に出せば続くものではありません。必要な息を、必要な分だけ、最後まで安定して使うことが大切です。
ところが、演技や動きが入ると、息を吸う準備が遅れたり、歌い出しで息を使いすぎたりします。その結果、ロングトーンの途中で息が足りなくなり、声が細くなったり、最後まで伸ばせなくなったりします。
つまり、ミュージカルのロングトーンでは、歌の技術だけでなく、演技中でも呼吸の状態を保てるかが重要になります。
感情を乗せるほど息の使い方が乱れやすい
ミュージカルでは、感情を強く表現しようとするほど、息の使い方が乱れやすくなります。
たとえば、怒り、悲しみ、喜び、叫びに近い感情を込めて歌う場面では、無意識に胸や喉に力が入りやすくなります。
胸や喉に力が入ると、胴体下部を使った息のコントロールが弱くなります。その結果、息を一定に使いにくくなります。
息の使い方が乱れると、声帯に届く息の量も不安定になります。声帯に届く息が安定しないと、声帯の振動も安定しにくくなります。
その状態でロングトーンを出そうとすると、最初は声が出ても、途中で声が震えたり、細くなったり、音程が下がったりします。最後だけ苦しそうに聞こえることもあります。
ここで大切なのは、感情表現が悪いわけではないということです。
ミュージカルでは、感情を込めて歌うことは必要です。ただし、感情が強くなるほど、呼吸筋がきちんと働いていないと、息のコントロールが崩れやすくなります。
ロングトーンを安定させるには、感情を消すのではなく、感情が動いても息の使い方が乱れない状態を作る必要があります。
そのためには、喉だけで声を頑張るのではなく、呼吸筋を使って息を安定させることが土台になります。
長いフレーズの中で息を使い切ってしまう
ミュージカル曲では、ロングトーンそのものよりも、その前のフレーズで息を使いすぎていることがあります。
ロングトーンが続かない人は、「伸ばす音が苦手」と考えがちです。しかし実際には、ロングトーンに入る前の歌い方で、すでに息をかなり使ってしまっている場合があります。
特にミュージカル曲は、セリフのように言葉が多く、感情の動きも大きいため、フレーズ全体で息を使いすぎやすいです。
呼吸筋で息を細く安定して使えないと、歌い出しや言葉の多い部分で息が一気に流れやすくなります。そのため、ロングトーンに入る前に、必要以上に息を消費してしまいます。
その状態で最後に長い音が出てくると、ロングトーンに必要な息が残っていません。
すると、音を伸ばしている途中で声が細くなったり、音程が下がったりします。声量を保とうとして喉に力を入れると、さらに苦しくなります。
つまり、ロングトーンが続かない原因は、伸ばす音だけにあるとは限りません。
その前のフレーズで、どれだけ息を使っているか。どのタイミングで息を吸っているか。歌い出しで息を出しすぎていないか。
こうした部分まで見る必要があります。
ミュージカルのロングトーンを安定させるには、音を長く伸ばす練習だけでなく、フレーズ全体の中で息をどう使うかを確認することが大切です。
ミュージカル歌唱全体の土台については、ミュージカル 発声の基本とは?初心者の方がまず身につけるべきことでも詳しく解説しています。
ロングトーンが続かない原因は肺活量だけではない
ロングトーンが続かない原因は、肺活量の少なさだけではありません。
大切なのは、吸った息をどれだけ安定して使えるかです。
息をたくさん吸えても、その息をコントロールできなければ、ロングトーンの途中で声は不安定になります。以下で詳しく解説します。
肺活量があっても息をコントロールできなければ続かない
ロングトーンに必要なのは、息の量だけではなく、息を一定に使う力です。
肺活量が多ければ、たしかに使える息の量は増えます。しかし、ロングトーンは息をたくさん持っているだけで続くものではありません。
たとえば、大きな水のタンクがあっても、蛇口を一気に開けばすぐに水はなくなります。反対に、必要な分だけ少しずつ出せれば、長い時間使えます。
声も同じです。
息をたくさん吸っても、歌い出しで一気に吐いてしまえば、ロングトーンの最後まで息が残りません。
特にミュージカルでは、声量を出そうとしたり、感情を強く表現しようとしたりする場面が多くあります。その時に息を強く使いすぎると、最初は迫力が出ても、最後まで声を保てなくなります。
つまり、ロングトーンが続かない時に見るべきなのは、「どれだけ吸えているか」だけではありません。
吸った息を、どのくらいの速さで使っているか。歌い出しで息を出しすぎていないか。最後まで同じように息を使えているか。
この息のコントロールが、ロングトーンの安定に大きく関わります。
喉が弱いのではなく呼吸筋が使えていない
ロングトーンが続かないのは、喉が弱いからではなく、呼吸筋が十分に使えていないことが大きな原因です。
声は、息が声帯を振動させることで生まれます。つまり、声を出すためには、まず息を送り出す力が必要です。
この息を送り出す働きには、胴体下部の筋肉が関わります。特に、内腹斜筋、外腹斜筋、腹横筋などが働くことで、肺から息が流れ出ます。
しかし、普段の生活では、これらの呼吸筋をしっかり使う機会が少なくなりやすいです。
そのため、ミュージカル曲のように長いフレーズや強い表現が必要になると、呼吸筋の働きが追いつかなくなります。
呼吸筋が十分に働かないと、息を安定して送り出すことが難しくなります。すると、声帯に届く息も不安定になり、声が細くなったり、震えたり、途中で苦しくなったりします。
この時、「自分は喉が弱い」と感じるかもしれません。
しかし、実際には喉の弱さではなく、声を動かすための呼気が安定していない可能性があります。
だからこそ、ロングトーンを改善するには、喉だけを鍛えようとするのではなく、まず呼吸筋を目覚めさせ、息を安定して使える状態を作ることが大切です。
息を強く吐きすぎると最後まで声が保てない
ロングトーンは、息を強く吐くほど続かなくなります。
一見すると、息を強く出した方が声も強くなり、ロングトーンも伸びそうに感じるかもしれません。
しかし、息を強く吐きすぎると、必要以上に息を消費してしまいます。すると、ロングトーンの途中で息が足りなくなり、声が弱くなったり、音程が下がったりします。
また、強すぎる息は、声帯にも負担をかけやすくなります。
声帯は、息を受けて振動します。息が強すぎると、声帯がその圧力を受け止めきれず、振動が乱れやすくなります。
その結果、声が揺れる、息漏れする、喉に力が入る、最後だけ苦しくなる、という状態につながります。
ミュージカルでは、客席に声を届けようとして、息を強く使いすぎることがあります。
しかし、舞台で響く声は、息を無理に押し出して作るものではありません。呼気が安定し、声帯が効率よく振動し、共鳴が自然に整うことで、無理の少ない声につながります。
ロングトーンを安定させるには、息を強く吐くのではなく、必要な息を最後まで安定して使うことが大切です。
舞台で響く声の考え方については、ミュージカルで声量を上げる秘訣|ミュージカル俳優のように舞台で響く声を出す方法でも解説しています。
呼吸筋が弱いと息を一定に使えない
ロングトーンを安定させるには、息をたくさん吸うことよりも、息を一定に使えることが大切です。
そのためには、呼吸筋がきちんと働いている必要があります。
呼吸筋の働きが弱いと、息を細く安定して使うことが難しくなり、ロングトーンの途中で声が揺れたり、細くなったり、音程が下がったりします。以下で詳しく解説します。
ロングトーンに必要なのは息の量より息の安定
ロングトーンに必要なのは、息の量よりも息の安定です。
もちろん、息を吸う量も大切です。しかし、たくさん吸えていても、その息を一気に使ってしまえばロングトーンは続きません。
大切なのは、吸った息を最後まで少しずつ使えることです。
ロングトーンでは、声を出している間ずっと、声帯に息が送られ続けます。この息の量が急に多くなったり少なくなったりすると、声帯の振動も安定しにくくなります。
その結果、声が震える、途中で細くなる、最後に音程が下がる、といった状態が起こります。
ミュージカルでは、ただ小さく長く伸ばせばよいわけではありません。感情を込めながら、声量や響きも保つ必要があります。
その時に息の使い方が安定していないと、最初だけ勢いのある声になり、後半で苦しくなります。
つまり、ロングトーンを伸ばすために必要なのは、息をたくさん出す力ではなく、息を安定して使い続ける力です。
胴体下部の収縮が弱いと呼気が安定しない
息を安定して使えない大きな原因は、胴体下部の収縮運動が弱いことです。
声を出す時、息は自然に外へ流れていきます。この呼気の流出には、胴体下部の筋肉が関わります。
具体的には、内腹斜筋、外腹斜筋、腹横筋などが働き、胴体下部が収縮することで、肺から息が押し出されます。
この働きが弱いと、息を安定して送り出すことが難しくなります。
すると、声を出すための動力が不安定になります。動力である息が不安定になると、声帯も安定して振動しにくくなります。
この時、喉で声を保とうとすると、さらに苦しくなります。
「自分は喉が弱い」と感じるかもしれません。しかし実際には、喉だけの問題ではなく、呼吸筋が十分に働いていないことで、息のコントロールが崩れている可能性があります。
ロングトーンを安定させるには、喉を強く使おうとする前に、まず胴体下部の収縮運動を目覚めさせる必要があります。
胴体下部の収縮運動が働き始めると、息を一気に吐くのではなく、必要な分だけ安定して使いやすくなります。
胴体下部の収縮運動と胸郭まわりの働きが息をコントロールする
息のコントロールは、胴体下部の収縮運動だけで作るものではありません。
ロングトーンでは、胴体下部が収縮して息を送り出します。一方で、横隔膜が一気に戻りすぎると、息が早く出すぎてしまいます。
そこで大切になるのが、胸郭まわりの働きです。
胴体下部の収縮運動によって息を送り出し、胸郭まわりの筋肉がその勢いを調整することで、息を急に出しすぎない状態が作られます。
この上下の対抗する動きによって、自然な腹圧が生まれます。
ただし、腹圧は無理に作るものではありません。お腹に力を入れて息を止めたり、いきむように固めたりすることとは違います。
ロングトーンに必要なのは、固める力ではなく、息を安定して動かし続けるための働きです。
多くの人は、普段の生活で胴体下部の収縮運動を十分に使えていません。そのため、いきなりミュージカル曲を歌おうとしても、息を安定して送り出す働きが追いつかないことがあります。
まずは胴体下部の収縮運動を使い、そこに胸郭まわりの働きが加わることで、息を安定してコントロールできる状態を作っていきます。
この状態に近づくほど、ロングトーンの途中で声が揺れにくくなり、最後まで音程や声量を保ちやすくなります。
呼吸器官の考え方をさらに深く知りたい方は、フースラーメソード徹底解説⑥正しい呼吸と間違った呼吸の違いとはも参考になります。
息が乱れると声帯と共鳴も安定しにくくなる
ロングトーンが続かない時は、息の乱れによって、声帯や共鳴の働きまで不安定になっていることがあります。
声は、呼気が声帯を振動させ、その音が共鳴腔で整うことで生まれます。
そのため、息の使い方が乱れると、声帯の振動や声の響きにも影響が出ます。以下で詳しく解説します。
呼気が安定しないと声帯振動も不安定になる
呼気が安定しないと、声帯の振動も安定しにくくなります。
声帯は、肺から送られてきた息を受けて振動します。つまり、声帯だけで声を作っているわけではありません。
ロングトーンでは、声を伸ばしている間、声帯に対して息が送り続けられます。この時、息の量や勢いが大きく変わると、声帯は一定の状態で振動しにくくなります。
たとえば、息が急に強くなると、声帯がその圧力を受け止めきれず、声が揺れやすくなります。反対に、息が弱くなりすぎると、声帯を振動させる力が足りなくなり、声が細くなったり、途中で抜けたりしやすくなります。
この状態を「喉が弱いから」と考えがちですが、実際には声帯に届く呼気が安定していない可能性があります。
だからこそ、ロングトーンを安定させるには、声帯だけを意識するのではなく、まず呼気を安定させる必要があります。
呼気が安定すると、声帯は必要以上に力まなくても振動しやすくなります。その結果、ロングトーンの途中で声が揺れにくくなり、最後まで声を保ちやすくなります。
声帯が不安定になると声が震える・細くなる
ロングトーンの途中で声が震えたり細くなったりするのは、呼気が乱れ、声帯の振動が安定していないサインです。
ロングトーンでは、同じ音を長く保つ必要があります。そのためには、呼気と声帯の関係が安定していることが大切です。
呼気が強すぎると、声帯はその息を受け止めようとして、喉に余計な力が入りやすくなります。すると、声帯の動きが硬くなり、声が震えたり、詰まったように聞こえたりします。
反対に、呼気が弱すぎると、声帯を十分に振動させにくくなります。その結果、声が細くなったり、息漏れしたり、音程が下がったりします。
つまり、声が震える原因は、単に緊張しているからだけではありません。
呼吸筋が十分に働かず、息のコントロールが不安定になることで、声帯の振動も乱れます。その結果として、声の震えや細さが起きます。
ここで喉だけを強く使って声を保とうとすると、さらに喉に力が入り、ロングトーンは苦しくなります。
必要なのは、喉で音を押さえ込むことではありません。呼吸筋を使って呼気を安定させ、その呼気に声帯が自然に反応できる状態を作ることです。
この状態に近づくほど、ロングトーンの声は震えにくくなり、細くなりにくくなります。
共鳴は息と喉が連動した結果として整う
ロングトーンの響きは、共鳴を直接作ろうとするのではなく、息と喉が連動した結果として整います。
声は、声帯で生まれた原音だけで完成するものではありません。声帯で生まれた音が、咽頭腔や口腔などの共鳴腔を通ることで、声として整っていきます。
そのため、ロングトーンでは、声帯振動だけでなく、共鳴の状態も安定している必要があります。
しかし、息が乱れると、喉にも力が入りやすくなります。喉に力が入ると、喉頭の位置が不安定になり、共鳴腔の状態も変わりやすくなります。
すると、ロングトーンの途中で声の響きが変わったり、声が細くなったり、こもったりします。
この時に、響きを良くしようとして喉の奥を広げようとしたり、口の形だけで共鳴を作ろうとしたりすると、かえって発声の連動が崩れやすくなります。
共鳴は、外から無理に作るものではありません。
呼気が安定し、声帯が無理なく振動し、喉頭が自然に安定することで、共鳴腔の状態も整いやすくなります。
つまり、ロングトーンの響きを安定させるには、まず息と喉の連動を整えることが大切です。
息が安定し、声帯が自然に振動し、共鳴が結果として整うことで、ミュージカルで必要な伸びのあるロングトーンにつながります。
ミュージカルで声がこもる原因については、ミュージカルで歌がこもる原因とは?声が通らない本当の理由と改善法でも詳しく解説しています。
演技・動き・感情表現でロングトーンが続かない理由
ミュージカルでロングトーンが続かないのは、歌っている最中に演技・身体の動き・感情表現が重なるからです。
呼吸だけに集中できる練習では安定していても、曲の中で役として表現しようとすると、息の使い方が乱れやすくなります。
特に、感情が強くなる場面や、身体を動かしながら歌う場面では、呼吸筋の働きが弱くなり、ロングトーンが続きにくくなります。以下で詳しく解説します。
感情表現で喉に力が入りやすい
感情を強く表現しようとすると、喉に力が入りやすくなります。
ミュージカルでは、ただ正しい音程で歌うだけではなく、登場人物の気持ちを声に乗せる必要があります。怒り、悲しみ、喜び、不安、決意など、感情が大きく動く場面ほど、声にも強い表現が求められます。
この時、呼吸筋が十分に働いていないと、身体は息のコントロールではなく、喉の力で声を強くしようとしやすくなります。
すると、最初の音は強く出せても、息を安定して使うことが難しくなります。喉に力が入ることで声帯の動きも硬くなり、ロングトーンの途中で声が震えたり、細くなったり、音程が下がったりします。
ここで大切なのは、感情を抑えることではありません。
ミュージカルでは感情表現が必要です。問題は、感情を出す時に、呼吸筋ではなく喉だけで声を押し出してしまうことです。
感情が動いても、胴体下部の収縮運動によって呼気を安定させられれば、喉だけに頼らずに声を出しやすくなります。
つまり、ロングトーンを安定させるには、感情を弱めるのではなく、感情が強くなっても息のコントロールが乱れない状態を作ることが大切です。
身体が動くと呼吸のフォームが崩れやすい
身体を動かしながら歌うと、呼吸のフォームが崩れやすくなります。
ミュージカルでは、立ったまま歌うだけではありません。歩く、振り向く、手を伸ばす、相手役に近づく、姿勢を変えるなど、さまざまな動きの中で歌います。
この時、身体の使い方が変わると、胴体下部や胸郭まわりの働きも変わりやすくなります。
たとえば、上半身が固まったり、胸が上がったり、肩に力が入ったりすると、胴体下部の収縮運動が働きにくくなります。すると、息を一定に送り出すことが難しくなります。
息が安定しない状態でロングトーンに入ると、声帯に届く呼気も乱れます。その結果、声の出だしは良くても、途中で声が揺れたり、最後まで伸ばしきれなかったりします。
また、動きに意識が向きすぎると、息を吸うタイミングも遅れやすくなります。
本来ならロングトーンに入る前に準備しておきたい呼吸が、動作や演技に引っ張られて浅くなることがあります。そのまま歌い始めると、最初から息の余裕がない状態でロングトーンに入ることになります。
そのため、ミュージカル曲では、止まった状態でロングトーンを練習するだけでなく、実際の動きの中でも息の使い方が乱れないかを確認する必要があります。
セリフから歌に入る時に息の準備が遅れる
セリフから歌に入る場面では、息の準備が遅れやすくなります。
ミュージカルでは、セリフの延長で歌に入ることがよくあります。話すように歌い始めたり、感情が高まった流れでそのままロングトーンに入ったりします。
この時、セリフに集中しすぎると、歌に必要な呼吸の準備が間に合わないことがあります。
会話の声では、歌ほど長い呼気や強いコントロールを必要としない場面が多いです。しかし、ミュージカル曲では、セリフの直後に高い音や長いロングトーンが出てくることがあります。
セリフの呼吸のまま歌に入ると、ロングトーンに必要な息が足りません。
その結果、歌い出しで息を多く使いすぎたり、途中で声が細くなったり、最後に音程が下がったりします。そこで喉に力を入れて保とうとすると、さらに苦しくなります。
セリフから歌に入る時は、ただ大きく息を吸えばよいわけではありません。
大切なのは、歌に入る前に、胴体下部の収縮運動が使える状態を作っておくことです。息を安定して送り出せる準備ができていれば、セリフから歌に入っても、ロングトーンの途中で続かなくなる状態を防ぎやすくなります。
ミュージカルのロングトーンは、音を伸ばす瞬間だけを練習しても安定しにくいです。
その前のセリフ、動き、感情の流れまで含めて、どこで息の準備が遅れているのかを確認することが大切です。
喉に力が入りやすい方は、喉で歌わない方法|プロが教える喉が楽になる発声法も参考になります。
ロングトーンを伸ばすための呼吸筋トレーニング
ロングトーンを伸ばすには、喉を強く使う練習ではなく、まず呼吸筋を使える状態にすることが大切です。
特に、胴体下部の収縮運動が弱いと、息を安定して送り出すことができません。
そのため、小谷メソッドでは、まず丹田のトレーニングによって胴体下部の収縮運動を目覚めさせていきます。
いきなり長く声を伸ばすのではなく、丹田を意識し、呼吸筋を使い、短い秒数から息を安定させる練習を行うことが大切です。以下で詳しく解説します。
まず丹田のトレーニングで胴体下部の収縮運動を目覚めさせる
ロングトーンを安定させるには、まず丹田のトレーニングで胴体下部の収縮運動を目覚めさせることが大切です。
声を出す時、息は肺から外へ流れます。この呼気の流出には、胴体下部の筋肉が関わります。
具体的には、内腹斜筋、外腹斜筋、腹横筋などが働き、胴体下部が収縮することで、肺から息が押し出されます。
しかし、普段の生活では、胴体下部の筋肉をしっかり使って声を出す機会は多くありません。日常会話では、ミュージカル曲ほど長い息も、強い表現も、長いフレーズも必要ないからです。
そのため、ミュージカル曲を歌おうとした時に、呼吸筋の働きが追いつかないことがあります。
そこで、まず丹田を意識します。
丹田を意識することで、普段眠っている胴体下部の収縮運動を引き出し、呼気を送り出す働きを目覚めさせていきます。
胴体下部の収縮運動が弱いままロングトーンを出そうとすると、息を安定して送り出せません。息が安定しないと、声帯に届く呼気も乱れます。その結果、声が震えたり、細くなったり、最後に音程が下がったりします。
この時に、喉だけで声を保とうとすると、さらに苦しくなります。
ロングトーンを伸ばすために必要なのは、喉を固めることではありません。まず丹田のトレーニングで胴体下部の収縮運動を目覚めさせ、声の動力である呼気を安定して送り出せる状態を作ることです。
呼吸筋が少しずつ目覚めると、息を一気に使うのではなく、必要な分だけ安定して使いやすくなります。
丹田を意識して短い秒数から息を一定に吐く練習をする
ロングトーンの練習は、最初から長い秒数を目指す必要はありません。
大切なのは、長く伸ばすことよりも、短い秒数でも息を一定に使えることです。
たとえば、最初から20秒、30秒と伸ばそうとすると、息を節約しようとして身体が固まりやすくなります。あるいは、最初に勢いよく出しすぎて、途中で息が足りなくなることもあります。
まずは短い秒数でかまいません。
5秒なら5秒、8秒なら8秒の中で、息の量が急に増えたり減ったりしないようにします。声を出す前に、丹田を意識し、胴体下部の収縮運動が働いているかを確認します。
この時、声量を無理に大きくする必要はありません。
最初から舞台で響くような声を出そうとすると、喉に力が入りやすくなります。まずは、息が安定しているか、声が途中で細くならないか、音程が下がらないかを確認することが大切です。
短い秒数で安定してきたら、少しずつ秒数を伸ばします。
この順番を守ることで、ただ我慢して長く伸ばす練習ではなく、呼吸筋を使って息をコントロールする練習になります。
ロングトーンは、長さだけを競うものではありません。ミュージカルで必要なのは、最後まで音程・声量・響きを保てるロングトーンです。
長時間より短時間×頻回で丹田の反応を身体に覚えさせる
呼吸筋のトレーニングは、長時間まとめて行うより、短時間でこまめに行う方が効果的です。
呼吸筋や発声に関わる器官は、普段の生活でも使われています。しかし、ミュージカル曲に必要な使い方とは負荷が違います。
そのため、週に一度だけ長く練習するよりも、短い時間でも回数を増やして、身体に発声の使い方を覚えさせることが大切です。
たとえば、1回で長時間ロングトーンを繰り返すと、疲れて喉に力が入りやすくなります。呼吸筋を鍛えるつもりが、途中から喉で頑張る練習になってしまうこともあります。
それよりも、短い時間で集中して、丹田と胴体下部の収縮運動を確認しながら練習する方が、正しい使い方を身体に残しやすくなります。
ロングトーンが続かない人ほど、長く伸ばす練習を何度も繰り返したくなるかもしれません。
しかし、息のコントロールができていない状態で長く繰り返しても、喉に力を入れるクセが強くなることがあります。
まずは短時間で、丹田を意識し、呼吸筋が働いている感覚を確認する。
そのうえで、少しずつ声を出す時間を伸ばす。
この流れで練習すると、ロングトーンは無理に耐えるものではなく、呼吸筋が働いた結果として自然に続きやすくなります。
丹田がボイストレーニングで重要な理由については、なぜ丹田はボイストレーニングで重要なのか?でも詳しく解説しています。
曲の中でロングトーンを安定させる実践練習
ロングトーンを安定させるには、単独で音を伸ばす練習だけでなく、実際のミュージカル曲の中で練習することが大切です。
曲の中では、言葉、演技、感情、身体の動きが加わるため、単独練習とは違う難しさがあります。
そのため、ロングトーンだけを取り出し、息の使い方を確認しながら、少しずつ曲の流れに戻していく必要があります。以下で詳しく解説します。
ロングトーンだけを取り出して練習する
曲の中でロングトーンが続かない時は、まずそのロングトーンだけを取り出して練習することが大切です。
最初から曲全体を通して練習すると、どこで息のコントロールが乱れているのか分かりにくくなります。
ミュージカル曲では、ロングトーンの前にセリフのようなフレーズがあったり、感情が大きく動いたり、身体の動きが入ったりします。その流れのまま何度も歌うと、「とにかく最後まで歌い切ること」が目的になりやすくなります。
しかし、ロングトーンが続かない原因を見つけるには、まず問題が起きている場所を小さく分ける必要があります。
ロングトーンの音だけを取り出し、短い秒数から声を伸ばします。その時に、息が一気に出ていないか、途中で声が細くなっていないか、最後に音程が下がっていないかを確認します。
この段階では、感情表現を強くつけすぎる必要はありません。
まずは、胴体下部の収縮運動が働いているかを確認し、その働きによって息を安定して送り出せているかを見ます。呼気が安定してくると、声帯も無理なく振動しやすくなり、ロングトーンの途中で声が揺れにくくなります。
単独で安定してきたら、次にロングトーンの直前の言葉をつけます。
いきなり長いフレーズに戻すのではなく、ロングトーンの前の一言、前の半フレーズ、前の一小節というように、少しずつ範囲を広げていきます。
この順番で練習すると、どの部分で息を使いすぎているのか、どこで呼吸の準備が遅れているのかが分かりやすくなります。
どこで息を使いすぎているか確認する
ロングトーンが続かない時は、伸ばす音だけでなく、その前にどこで息を使いすぎているかを確認する必要があります。
ロングトーンの最後で息が足りなくなると、多くの人は「長く伸ばす力が足りない」と考えます。
しかし、実際にはロングトーンに入る前の時点で、すでに息を使いすぎていることがあります。
特にミュージカル曲では、言葉をはっきり伝えようとしたり、感情を強く出そうとしたりすることで、歌い出しから息を多く使いやすくなります。
そのままロングトーンに入ると、伸ばす音に必要な息が残りません。すると、途中で声が細くなったり、音程が下がったりします。
確認する時は、まずロングトーンの前のフレーズをゆっくり歌います。
その時に、最初の言葉で息を出しすぎていないか、子音で息が漏れすぎていないか、強く言おうとして喉に力が入っていないかを見ます。
ミュージカルでは言葉を届けることが大切ですが、言葉を強く言うことと、息を大量に使うことは同じではありません。
胴体下部の収縮運動が働いていれば、息を一気に出さなくても、言葉に必要な輪郭を作りやすくなります。
反対に、呼吸筋が弱い状態では、言葉をはっきり出そうとした時に、息を強く吐きすぎたり、喉に力を入れたりしやすくなります。
その結果、ロングトーンに入る前に息を消耗してしまいます。
だからこそ、曲の中で練習する時は、ロングトーンそのものだけでなく、その前のフレーズで息をどう使っているかを見ることが大切です。
演技をつけても息の使い方が乱れないようにする
ロングトーンをミュージカル曲の中で安定させるには、演技をつけても息の使い方が乱れない状態を作る必要があります。
単独練習でロングトーンが続いても、演技をつけた途端に続かなくなることがあります。
これは、感情や動きが入ることで、呼吸の準備が遅れたり、喉に力が入ったり、胴体下部の収縮運動が働きにくくなったりするからです。
そのため、練習では段階を分けます。
まずは、止まった状態でロングトーンを安定させます。
次に、歌詞をつけます。
その次に、表情や視線をつけます。
最後に、実際の動きや演技を加えます。
この順番で練習すると、どの段階で息のコントロールが乱れるのかが分かります。
たとえば、止まって歌うと続くのに、視線を上げると続かない場合は、視線を変えた時に首や胸に力が入っている可能性があります。
動きをつけた途端に続かない場合は、身体の動きによって胴体下部の収縮運動が働きにくくなっている可能性があります。
感情を強く入れた時に続かない場合は、喉で声を押し出そうとしている可能性があります。
このように分けて確認すると、「自分は喉が弱いから続かない」と決めつけずに、どこで息のコントロールが乱れているのかを見つけやすくなります。
ミュージカルのロングトーンは、練習室で音だけを伸ばせれば完成ではありません。
曲の流れ、言葉、感情、動きが入っても、呼気が安定し、声帯が自然に反応し、共鳴が整う状態を目指すことが大切です。
発声練習の組み立て方については、発声練習の基本と効果的なトレーニング方法|正しい方法で歌が劇的に上達するも参考になります。
まとめ|ミュージカルのロングトーンは呼吸の土台から整える
ミュージカルでロングトーンが続かない原因は、喉が弱いことではありません。
多くの場合、呼吸筋が十分に働いておらず、息を安定してコントロールできていないことが関係しています。
ロングトーンは、ただ息をたくさん吸えば続くものではありません。大切なのは、必要な息を必要な分だけ、最後まで安定して使えることです。
そのためには、まず丹田のトレーニングによって、胴体下部の収縮運動を目覚めさせる必要があります。
胴体下部の収縮運動が働くと、声の動力である呼気を安定して送り出しやすくなります。呼気が安定すると、声帯も無理なく振動しやすくなり、共鳴も自然に整いやすくなります。
反対に、呼気が不安定なままロングトーンを出そうとすると、声帯振動が乱れ、声が震えたり、細くなったり、音程が下がったりします。
そこで喉だけで頑張ろうとすると、さらに力みが強くなり、ロングトーンはより苦しくなります。
ミュージカルでは、歌だけでなく、演技、身体の動き、感情表現も加わります。
だからこそ、単独で音を伸ばす練習だけでなく、実際の曲の中で、どこで息を使いすぎているのか、どこで呼吸の準備が遅れているのかを確認することが大切です。
ロングトーンが続かない時は、「喉が弱いから」と決めつける必要はありません。
まずは呼吸筋を目覚めさせ、息を安定して使える状態を作る。
そのうえで、呼気・声帯・共鳴が自然に連動する状態を育てていく。
この順番で練習していくことで、ミュージカル曲の中でも、最後まで伸びのあるロングトーンにつながっていきます。




