こんにちは、ボイストレーナー小谷です。今回は『うたうこと』第14章「ふつう”の発声器官にみられる欠陥,弱点,故障,合併症」を解説します。

前回の記事を未読の方は、下記から確認できます。
フースラーメソッド徹底解説14|歌うことと話すことは何が違うのか?『うたうこと』第13章「歌うことと話すこと」

第14章でフースラーが言おうとしているのは、のどの硬直や高音の出にくさは、単なる悪い癖だけで起こるものではなく、歌うときに発声器官が十分に働かないために、本来、声を出す時に不必要な筋肉がフォローしようとする反応として現れる、ということです。

つまり、表に出ている症状だけを見ると、発声の問題を見誤りやすくなります。
なぜそう言えるのかを、第14章の流れに沿って確かめていきます。

「ふつう」の発声器官に起こる弱点をフースラーはどう見ているのか

ここでは、第14章でフースラーがいう「ふつう」の発声器官とは何かを見ていきます。
ふつうに話せることと、歌うために十分働くことは別の話です。
まずは、歌おうとしたときに発声器官の弱さがどう表に出るのかを解説します。

ふつうの発声器官は、話すことには耐えても歌うことにはすぐ耐えられない

フースラーがいう「ふつう」の発声器官とは、現代人に多く見られる、歌うための機能がまだ十分に目覚めていない発声器官を指していると考えられます。
ふつうの発声器官は、ふつうに話すことはできても、歌うための声の仕事に十分に応じられるとは限りません。

日常の話し声では、発声器官の一部だけでも声を出すことができます。
一方で、日常の話し声が慢性的に続くと、歌うために必要な機能は使われないままになります。
フースラーは、喉頭懸垂機構が、歌おうとする瞬間まで本質的に動かされてこなかったと考えています。

そのため、ふつうの発声器官は、いざ歌おうとすると、急に大きな声の仕事を求められます。
しかし、歌うために眠っていた機能、つまり喉頭懸垂機構は、すぐには十分に働きません。
その結果、日常でよく使われてきた別の筋肉が、本来その仕事を担う喉頭懸垂機構の代わりに喉頭を支えようとします。ここから、のどの硬直や息の圧力への依存が始まります。

フースラーメソッドの基礎となる原理から知りたい方は、フースラーメソードを徹底解説①|著書「うたうこと」の基礎原理を詳しく解説 もあわせてご覧ください。

歌おうとした瞬間に、別の筋肉で補おうとする働きが起こる

ふつうの発声器官では、歌うための機能がまだ十分に目覚めていません。
そのため、歌おうとした瞬間に、本来その仕事を担う喉頭懸垂機構がすぐには十分に働きません。
喉頭懸垂機構が十分に働かないと、喉頭は歌うために必要な支えを得にくくなります。

そこで、日常でよく使われてきた舌、舌骨、咽頭まわりの筋肉が、喉頭を支えようとします。
しかしフースラーは、この補い方を生理学的に正しい援助としては見ていません。
別の筋肉が喉頭を支えようとすると、喉頭は自然に保たれるのではなく、上へ引き上げられたり、舌によって下へ押さえられたりしやすくなります。

その結果、のどに余計な力が入り、下顎や舌まで動きにくくなることがあります。
フースラーが問題にしているのは、歌い手の意志の弱さよりも、歌うための機能が目覚めていない発声器官が、別の筋肉で何とか声を出そうとする状態です。ここに、のどの硬直が起こる最初の流れがあります。

 

のどの硬直は悪い癖ではなく、足りない機能を補う反応として起こる

ここでは、第14章の中心にある「のどの硬直」を見ていきます。
ただしフースラーは、のどの硬直を単なる癖として扱っていません。
まずは、何が足りないために、のどが硬くなっていくのかを解説します。

喉頭懸垂機構が十分に働かないと、舌や舌骨まわりが喉頭を支えようとする

のどの硬直が起こる大きな原因は、喉頭懸垂機構が喉頭を十分に支えられないことにあります。
喉頭懸垂機構が十分に働けば、喉頭は歌うために必要な位置で保持されやすくなります。
しかし喉頭懸垂機構が十分に働かないと、喉頭は歌うための支えを失い、結果として喉頭の位置が不安定になります。

その不足を補うために、舌、舌骨、咽頭まわりの筋肉が喉頭を支えようとします。
舌や舌骨まわりの筋肉が喉頭を支えようとすると、舌骨と喉頭は上へ引き上げられやすくなります。
さらに、上がりすぎた喉頭を押さえようとして、舌が喉頭を下へ押しつけることもあります。

フースラーは、このような支え方を正しい発声訓練として見ていません。
この状態では、喉頭の位置が不安定になり、上からも下からも押し合うような状態になります。
その結果、のどに余計な力が入り、舌や下顎の動きまで巻き込まれやすくなります。

フースラーが「のどの硬直」と呼ぶ問題のひとつは、このように喉頭懸垂機構の機能不足を、舌や舌骨まわりの筋肉が補おうとするところから起こります。

喉頭懸垂機構そのものの働きをより詳しく知りたい方は、フースラーメソード徹底解説⑤喉頭懸垂機構について もあわせてご覧ください。

声帯を伸ばす機能が足りないと、声帯そのものがこわばりやすくなる

フースラーは、声帯を伸ばす機能が足りない時にも、別の筋肉による代償が起こると見ています。
声帯を伸ばす中心的な筋肉は、輪状甲状筋です。輪状甲状筋が十分に働くためには、胸骨甲状筋が相手役として必要な対応牽引を行う必要があります。しかし胸骨甲状筋が十分に働かないと、輪状甲状筋は本来の相手役を失います。

すると、その不足を補うために、声帯そのものの中にある声帯筋が、輪状甲状筋の相手役として働こうとします。声帯筋が本来の役割を越えて相手役を引き受けると、声帯はこわばりやすくなります。
声帯がこわばると、声帯の振動能力は落ち、声は自由に出にくくなります。

その結果、高音域では声が思うように出にくくなり、胸っぽい声になりやすくなります。
フースラーは、この問題が中音域を強くしようとする正しくない努力から起こることがあると見ています。
ここでも問題の中心は、声帯そのものの弱さだけではなく、声帯を伸ばす機能と喉頭を支える機能の結びつきが崩れることにあります。

声帯を伸ばす機能と声区のつながりについては、フースラーメソード徹底解説⑧声区(レジスター)について|歌うこと7章「声区」より が参考になります。

喉頭の保持が足りないと、声門閉鎖の筋肉が余計に働きやすくなる

フースラーは、喉頭の保持が足りない場合にも、別の筋肉による代償が起こると見ています。
喉頭を下方へ引っぱる懸垂筋が十分に働かないと、喉頭は歌うために必要な保持を得にくくなります。
このとき、声門を閉じる筋肉が、本来とは違う相手役として働きやすくなります。

声門閉鎖の筋肉が喉頭の保持まで補おうとすると、のどは硬直しやすくなります。
のどが硬直すると、喉頭の中の筋肉はそれぞれの仕事をしにくくなります。
その結果、声は平たく、鋭い音質になりやすくなります。

ここでもフースラーは、声の問題を声門閉鎖だけの問題として見ていません。
喉頭懸垂機構が十分に働かないために、声門閉鎖の筋肉が余計な仕事を背負わされることが問題になっています。つまり、のどの硬直は、喉頭の保持と声門閉鎖の働きが混ざり合ったときにも起こるのです。

声門閉鎖の正しい働きについては、フースラーメソード徹底解説④正しい声門閉鎖について「喉頭」 で詳しく解説しています。

呼気圧迫は、発声器官を無理に働かせるための代償として起こる

ここでは、第14章のもうひとつの大きな問題である「呼気圧迫」を見ていきます。
フースラーは、息の圧力でのどを働かせようとする状態を、歌い始めの人に起こりやすい合併症として扱っています。これは、息の流れそのものではなく、歌おうとした瞬間に息の圧力へ頼ってしまう問題です。

まずは、なぜ歌おうとすると息の圧力に頼りやすくなるのかを解説します。

歌い始めの人ほど、息の圧力で声を出そうとしやすい

フースラーは、呼気圧迫を、練習のはじめにほとんど誰にでも起こる合併症として扱っています。
人は、普段の限度を越える肉体的な努力をしようとすると、息を止めたり、胸まわりを固めたりしやすいものです。フースラーは、この反応が肉体的な努力だけでなく、心情的な努力や知性的な努力でも起こると見ています。

歌い始めの人も、声を出そうとする意志が強くなるほど、息の圧力でのどを働かせようとしやすくなります。
歌うための機能がまだ十分に目覚めていない発声器官では、息の圧力をきっかけにしないと声が出ないように感じられることがあります。そのため、息を強く押し出すことが、声を支える方法のように感じられやすくなります。

しかしフースラーは、この呼気圧迫を克服すべきものとして見ています。
呼気圧迫は、声を助けているように見えて、実際には喉頭に無理な力をかけます。
ここで問題になるのは、息そのものよりも、息の圧力で発声器官を無理に働かせようとすることにあります。

正しい呼吸と間違った呼吸の違いについては、フースラーメソード徹底解説⑥正しい呼吸と間違った呼吸の違いとは|歌うこと第4章「解剖と生理」3部「呼吸器官」から で解説しています。

 

呼気圧迫は、呼吸器官と喉頭を無理につなげようとする試みとして見られている

フースラーは、呼気圧迫を単なる息の使いすぎとしてだけ見ていません。
フースラーは、呼気圧迫を、呼吸器官と喉頭を何とか結びつけようとする試みとして考えています。
本来なら、呼吸器官と喉頭は同時に働き、歌うための声を作ります。

しかし、歌うための機能がまだ十分に目覚めていない発声器官では、その結びつきがうまく起こりにくくなります。そのため歌い手は、圧迫した息を道具のように使って、無理やり呼吸器官と喉頭をつなげようとします。
フースラーは、歌い手がいう「空気の柱」も、このような発想と関係していると見ています。

声を支えようとする努力が、結果として息の圧力でのどを押す形になることがあります。
しかしこの方法では、呼吸器官と喉頭の自然な結びつきは生まれにくくなります。
呼気圧迫は、声を支える方法というより、結びつきの悪さを息の圧力で補おうとする代償です。

呼気圧迫が残ると、歌手結節のような故障につながる危険がある

フースラーは、呼気圧迫を徹底的に克服すべきものとして考えています。
呼気圧迫が残ったまま練習を続けると、喉頭は息の圧力を受けながら声を出すことになります。
のどの下でせき止められた息が、声を出すときに爆発的に噴き出すような状態になるためです。

この息の圧力は、声帯や喉頭に強い負担をかけます。
フースラーは、その結果として歌手結節のような故障が起こる危険にも触れています。
ただしフースラーは、呼気圧迫を単なる乱暴な息づかいとしてだけ見ていません。

呼気圧迫は、呼吸器官と喉頭の結びつきを無理やり作ろうとする失敗した試みでもあります。
つまり、息を強くぶつけることで、呼吸器官と喉頭を何とか同時に働かせようとしている状態です。

しかしその方法では、息の流れが安定せず、喉に余計な力が入りやすい状態になります。
だからこそ、呼気圧迫を取り除くことは、息を弱くすることではなく、呼吸器官と喉頭が同時に働く状態へ近づくことにつながります。フースラーにとって大切なのは、息の圧力で声を無理やり押し出すことよりも、発声器官そのものが声を作れる状態になることです。

嚥下や呼吸の機構が、歌うための働きを妨げることがある

フースラーは、嚥下や呼吸の器官が、歌声の作られ方を妨げることがあると見ています。
歌声は本来、息の流れが安定し、喉頭や声帯が声のために働くことで作られます。
しかし、声を前に出そうとすると、嚥下の働きが入り込みやすくなります。
まずは、声を前に出そうとすると、なぜ嚥下の働きが入り込みやすいのかを解説します。

声を前に出そうとすると、嚥下の働きが入り込みやすい

フースラーは、声を「前に」出そうとするとき、嚥下の働きが起きることがあると考えています。
声を前に出そうとすると、声門間隙を閉じる働きが強くなりやすくなります。
声門間隙を閉じる働きは、飲み込むときにも起こります。

そのため、声を前に出そうとすると、嚥下の動きが起きやすくなります。
嚥下の動きが起きると、喉頭は高く引き上げられやすくなります。
さらに、喉頭蓋が倒れ、鼻への通路もふさがれやすくなります。

その結果、のどは狭くなり、声は前に出ているようで、実際には喉に余計な力が入りやすくなります。
この偏りが強くなると、フースラーがいう「開きすぎ」や「平たい」声につながりやすくなります。
フースラーは、この状態を嚥下機能による不要な介入として見ています。

ここで問題になるのは、声を前に出す意識そのものよりも、声を前に出そうとしたときに、飲み込むための働きまで一緒に起きてしまうことです。

声にふくらみ(量感)を持たせようと喉を開くと、呼吸器官の働きが過剰に入り込みやすい

フースラーは、声にふくらみ(量感)を持たせようとするときにも、代償動作が起きると考えています。
声にふくらみ(量感)を持たせようとすると、過剰に喉を開こうと意識してしまうことがあります。
過剰に喉を開こうとすると、喉頭は下方へ引き下げられやすくなります。

喉頭が下方へ引き下げられると、喉頭蓋は立ち上がり、鼻への通路も開きやすくなります。
この動きは、深呼吸のときに起こる動きと近いものです。
深呼吸そのものは、身体を落ち着かせたり、息が入る感覚を確認したりする点では役に立ちます。

しかし歌声を作るときに、深呼吸のような開き方が過剰に入ると、声帯のあいだに広いすき間ができやすくなります。声帯のあいだにすき間ができると、歌声としては息が漏れやすくなります。
その結果、声にふくらみ(量感)を持たせようとしたはずが、声は息っぽく、のどっぽい方向へ偏りやすくなります。

フースラーが問題にしているのは、深呼吸そのものよりも、深呼吸に近い呼吸器官の働きが歌声の中へ過剰に入り込むことです。

高音の不足は、待てば自然に解決するわけではない

ここでは、第14章でフースラーが扱う「高音の不足」を解説していきます。
フースラーは、高音の出にくさを、歌手にとって大きな悩みとして考えています。
まずは、なぜ高音は中音域を練習すれば自然に出るものではないのかを解説します。

フースラーは、高音を歌手の中心的な問題として考えている

フースラーは、高音域のむずかしさを、多くの歌手にとって大きな悩みとして考えています。
高音が出にくい状態は、歌手を不安にさせ、歌うことそのものを苦しいものにしやすくなります。
そのためフースラーは、発声教育者の大きな仕事のひとつは、歌手から高音への不安を取り去ることだと考えています。

ここでいう高音は、ただ声域の上の部分にある音ではなく、歌声を成立させる主要な成分として見られています。フースラーは、高音を作るための根本的な機能が、低音域にも声楽的な価値を与えると考えています。
つまり高音の問題は、高い音だけの問題にとどまりません。

高音を支える発声器官の機能が弱いままだと、声全体の働きも偏りやすくなります。
そのためフースラーは、高音の不足を、歌手の声全体に関わる重要な問題として扱っています。

高音は中音域を鍛えれば自然に出るわけではない

フースラーは、「中音域を訓練すれば高音は自然に出てくる」という考えを強く批判しています。
フースラーは、高音域は最初から目覚めている場合を除いて、自然に出てくるものとは考えていません。
仮に最初から高音が出ていたとしても、練習を怠ったり誤った発声をしていると失われることがあります。

一方で、ふつうの発声器官にも、高音を出す能力は潜在的に備わっています。
しかしその能力は、発声器官が目覚めていないことで隠れています。
そのため、高音は十分な知識をもって、その機能を目覚めさせていくものとして考えられています。

「生まれつき音域が狭い声」などの言い方で片づけてしまうと、高音を生む機能は隠れたままになりやすいです。つまり、問題は本当に高音を出す能力がないことではなく、その能力を働かせるための発声器官が十分に目覚めていないことにあります。

フースラーが退けているのは、高音は自然に出るものだと考え、高音を習得するために何もしないことです。
ここには、高音を精神論や感覚だけで扱わず、発声器官の具体的な機能として見る姿勢があります。

高音には特別な筋肉の機能が必要になる

フースラーは、声の高さは特殊な複合的な筋肉の機能によって作られると考えています。
そのため高音は、ただ息を強くしたり、気合いで出したりするものとして考えられていません。
高音を出すためには、声帯を伸ばす機能、喉頭を支える機能、声門を閉じる機能などが関わります。

これらの機能のどこかが妨げられると、高音は出にくくなります。
そのためフースラーは、発声訓練教師は高音を妨げている原因を理解していなければならないと考えています。高音の不足に対して、よい助言をするだけでは足りません。

美しい声の考え方を語るだけでも、高音の問題は解決しにくくなります。
必要なのは、高音を生む発声器官の機能がどこで妨げられているのかを見ることです。
つまりフースラーにとって高音は、感覚的な才能だけの問題ではなく、発声器官の機能がどう働くかという問題です。ここに、高音の不足を具体的な発声の問題として扱うフースラーの姿勢が表れています。

複数の機能がひとつにまとまって働く考え方については、フースラー「歌うこと」解説③ 第3章「発声器官の統一」を徹底解説 が参考になります。

 

発声器官の緊張過剰と緊張不足

ここでは、第14章の最後に触れられる、発声器官の緊張過剰と緊張不足について見ていきます。
フースラーは、発声器官には、凝り固まった筋肉としなびた筋肉という二つの状態があると考えています。
まずは、凝り固まった筋肉が、のどの硬直とどう違うのかを解説します。

凝り固まった筋肉は、のどの硬直ではない

フースラーは、凝り固まった筋肉を、ふつうの人に見られるのどの硬直と混同してはいけないと考えています。
のどの硬直は、声を出そうとしたときに、足りない機能を別の筋肉で補おうとして起こります。
一方で、凝り固まった筋肉は、声を出していないときにも存在しています。

なのでフースラーが言う凝り固まった筋肉とは、発声器官まわりの筋肉に余計な緊張が残っている状態です。
これは、緊張過剰型の状態であり、肩こりに近いものとして考えると分かりやすいです。
さらにフースラーは、発声器官が正しく働いているときにも、この筋肉の凝り固まりは存在すると見ています。

つまり凝り固まった筋肉は、発声中にだけ起こる代償動作ではなく、筋組織そのもののよくない状態として考えています。この状態では、必要なときにだけ働き、必要がなくなればゆるむという切り替えが起こりにくくなります。そのため、声を出すときにも、発声器官の働きが重くなりやすくなります。

フースラーは、このような緊張過剰型の発声器官も、発声教師が向き合うべき問題として見ています。

しなびた筋肉は、必要な緊張を作れない状態

フースラーは、凝り固まった筋肉とは反対に、しなびた筋肉という状態にも触れています。
しなびた筋肉とは、必要なときに十分な緊張を作ることができない筋肉のことです。
凝り固まった筋肉が余計な緊張を残している状態だとすれば、しなびた筋肉は必要な緊張を作れない状態です。

発声器官まわりの筋肉がしなびていると、声を出すときに必要な支えや張りが生まれにくくなります。
その結果、声は弱くなりやすく、息の流れも不安定になりやすくなります。フースラーは、この状態を単なる気分や意志の問題ではなく、発声器官の筋組織そのものが十分に働けない状態として考えています。

そのため、凝り固まった筋肉と同じく、しなびた筋肉も発声教師が向き合うべき問題になります。
ここでフースラーが見ているのは、声を出す瞬間の癖だけではなく、発声器官の筋肉の状態そのものです。

凝り固まった筋肉としなびた筋肉は発声教師が向き合うべき問題

フースラーは、凝り固まった筋肉としなびた筋肉のどちらも、発声教師が向き合うべき問題として考えています。凝り固まった筋肉では、余計な緊張が抜けにくくなります。一方で、しなびた筋肉では、必要な緊張を作りにくくなります。

余計な緊張が残り続けても、必要な緊張を作れなくても、発声器官は歌うために必要な働きをしにくくなります。フースラーは、この二つの状態を、声を出す癖だけで片づけていません。問題は、発声器官まわりの筋肉が、必要なときに働き、必要がなくなればゆるむという状態から外れていることにあります。

そのためフースラーは、目的にかなった運動をくり返すことで、筋肉の状態を変えていく必要があると考えています。凝り固まった筋肉には、ゆるめる方向の働きが必要になります。
しなびた筋肉には、必要な緊張を作れるようにする方向の働きが必要になります。

ここでもフースラーは、発声の問題を声の出し方だけでなく、発声器官の筋肉の状態から見ています。

 

まとめ:第14章は、発声の不調を悪い癖だけで片づけない章である

第14章でフースラーは、のどの硬直、呼気圧迫、不要な介入、高音の不足、発声器官の緊張過剰と緊張不足を扱っています。これらの問題に共通しているのは、表に出ている症状の奥に、歌うための機能が十分に働いていない状態があることです。のどの硬直は、喉頭懸垂機構の不足を、舌や舌骨まわりの筋肉が補おうとして起こります。

呼気圧迫は、呼吸器官と喉頭の結びつきの弱さを、息の圧力で補おうとするところから起こります。
また、嚥下や呼吸器官の働きが過剰に入り込むと、平たい声やのどっぽい声に偏りやすくなります。
高音の不足は、声域の問題だけではありません。

高音を生む発声器官の機能がまだ十分に目覚めていないことと関係しています。
凝り固まった筋肉としなびた筋肉も、声の出し方だけではなく、発声器官まわりの筋肉の状態として見られています。そのためフースラーは、発声の問題を、表に出ている癖だけで判断していません。

大切なのは、どの機能が足りず、どの筋肉が代わりに働き、どこで発声器官の働きが妨げられているのかを見ることです。小谷メソッドで呼吸器官と喉頭筋の連動を重視する理由も、ここにつながります。
声を変えるには、症状だけを追うのではなく、発声器官が歌うために働ける状態へ近づけていく必要があります。

 

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