こんにちは、ボイストレーナー小谷です。今回はフースラー『うたうこと』第15章「訓練の原則」を解説します。
前回記事を未読の方は、下記から確認できます。
フースラーメソッド徹底解説15|のどの硬直・呼気圧迫・高音不足はなぜ起こるのか?『うたうこと』第14章「ふつう”の発声器官にみられる欠陥,弱点,故障,合併症」
第15章では、発声訓練を進めるときに、何を重視するべきかが解説されています。
フースラーは、発声訓練では発声器官がどのような状態で働いているかを見ながら、練習を進める必要があると考えています。
なぜフースラーが訓練をこのように考えているのかを、本章の流れに沿って解説していきます。
目次
第15章「訓練の原則」でフースラーが言いたいこと
ここでは、第15章「訓練の原則」で、フースラーが発声訓練をどのように考えているかを解説していきます。
フースラーは、よい声とそうでない声の違いを、才能だけの問題として見ていません。
まずは、優れた歌手ののどがどのように働くのかを解説していきます。
優れた歌手ののどは自発的に働く
フースラーは、非常に卓越した歌手の喉には、自発的行動力があると考えています。
ここでいう喉とは、喉頭と喉頭懸垂機構を含めたものです。
優れた歌手の喉は、外から無理に動かされるのではなく、器官自身の中にある衝動によって自然に働く状態にあります。
そのため、喉頭や喉頭懸垂機構のさまざまな機能は、ほとんど独自に働きます。
ただし、それは呼吸器官から切り離されて働くということではありません。
喉が自発的に働いていても、その働きは呼吸器官との連動を失わないのです。
フースラーは、この自発的に働く喉の状態を、優れた歌手の喉を特徴づける大きな要素として考えています。
声の悪さは才能だけで決まらない
フースラーは、優れた歌手とそうでない歌手の違いを、生まれながらの才能だけで決めていません。
もちろん、生まれながらの体質が関わる場合もあります。
しかしフースラーが重視しているのは、発声器官が現在どのような状態にあるかということです。
よい声が出るかどうかは、発声器官の状態がよいか悪いかによって大きく変わります。
そのため、声の悪さも、才能がないから起こるものとしてだけ考えることはできません。
発声器官の状態が悪ければ、本来働くはずの機能が働きにくくなります。
反対に、発声器官の状態が変われば、声の出方も変わる可能性があります。
フースラーは、訓練によって発声器官の状態を変えていく可能性を見ているのです。
発声器官の悪い状態は三つの不足から起こる
フースラーは、発声器官の悪い状態には、三つの主な不足があると考えています。
一つ目は、神経支配の悪さです。これは、筋肉の反応が鈍くなっている状態です。
二つ目は、筋の張力が弱すぎることです。これは、筋肉にしまりがなく、必要な緊張を保ちにくい状態です。
三つ目は、各発声器官の協調不足です。これは、発声器官どうしの働きがうまく連動していない状態です。
発声器官がこれらのような状態になると、声を出そうとしても、喉頭、声帯、喉頭懸垂機構、呼吸器官の働きがうまく連動しなくなります。
その結果、喉に余計な力が入りやすい状態になったり、息の流れが不安定になったりします。
このことからフースラーは、発声訓練を、単に声を出す練習だけと考えず、発声器官そのものの状態を変えていくものとして考えていることが分かります。
訓練は神経支配を目覚めさせることから始まる
ここでは、発声器官の悪い状態を変えるうえで、フースラーが重視している神経支配について解説していきます。
フースラーは、神経支配の悪さが、筋肉の反応や張り、各発声器官の協調にも影響すると考えています。
まずは、神経支配が何を意味しているのかを確認します。
神経支配は聴覚と発声器官を結ぶ
フースラーは、神経支配を、神経の刺激が器官へ伝わることとして説明しています。発声訓練で問題になるのは、聴覚と発声器官との繋がりです。ここでいう聴覚は、ただ音を聞くことだけではありません。声のイメージを思い浮かべる働きも含んでいます。
聴覚と発声器官との繋がりには、神経支配がよく行き届いている必要があります。一方で、神経支配がよくない歌手では、聴覚と発声器官との繋がりが弱くなっています。そのため、出したい声のイメージがあっても、発声器官がすぐに反応しにくくなります。フースラーにとって神経支配とは、単なる神経の話ではなく、聞くことと発声器官の働きを結びつける問題なのです。
筋の張力が弱いと喉に余計な力が入りやすい
フースラーは、発声器官の悪い状態の一つとして、筋の張力が弱すぎることを挙げています。筋の張力とは、筋肉が普段から保っている張りのことです。健康な筋肉には、働いているときも働いていないときも、一定の張りがあります。一方で、疲れた筋肉、弱くなった筋肉、あまり使われていない筋肉では、この張りが弱くなります。
フースラーは、このような状態を、しなびた筋肉として考えています。発声器官まわりの筋肉がしなびると、声を作るために必要な筋肉の張りが足りなくなります。その結果、不足している張りを補おうとして、喉に余計な力が入りやすくなります。つまり、筋の張力が弱すぎることは、弱い声だけでなく、喉に余計な力が入る原因にもなります。
各発声器官の協調不足で声の働きが連動しにくくなる
フースラーは、発声器官の悪い状態の一つとして、各発声器官の協調不足を挙げています。各発声器官の協調不足とは、発声器官どうしの働きがうまく連動していない状態のことです。発声では、喉頭、声帯、喉頭懸垂機構、呼吸器官が、バラバラに働いてはいけません。
それぞれの発声器官が、歌うために協調し連動する必要があります。しかし各発声器官の協調が不足すると、声を出すときに喉頭の位置が不安定になったり、声帯の振動が不安定になったり、息の流れが乱れたりします。その結果、発声器官全体の働きが連動しにくくなり、声も安定しにくくなります。つまり、各発声器官の協調不足は、声の出し方だけの問題ではなく、発声器官どうしがうまく連動しない問題です。
発声器官どうしの連動については、フースラー「歌うこと」解説③ 第3章「発声器官の統一」を徹底解説 も参考になります。
開放作業は聞くことから始まる
ここでは、フースラーがいう開放作業について解説していきます。フースラーは、発声器官の神経支配をよくすることを、開放作業と呼んでいます。そしてその開放作業は、まず聞くことから始まると考えています。次に、自分の声だけでなく、発声器官を聞くとはどういうことなのかを見ていきます。
自分の声だけでなく発声器官を聞く
フースラーは、卓越して完成した歌手は、自分の声を聞くだけでなく、自分の発声器官をも聞くと考えています。ここでいう「発声器官を聞く」とは、自分の声を聞きながら、喉頭、声帯、喉頭懸垂機構、呼吸器官がどのような状態で働いているかを理解できているということです。
自分の発声器官の働きを理解できると、声の響きだけでなく、発声器官の働きにも注意が向きやすくなります。
反対に、発声器官の働きを理解できないまま練習すると、ただ声が出ているかどうかだけに意識が向きやすくなります。その結果、発声器官の弱点や働きにくさに気づきにくくなります。フースラーにとって聞くことは、開放作業の入口であり、発声器官の状態を変えるための出発点です。
フースラーが重視する「聞くこと」については、フースラー「歌うこと」解説② 第2章「まず聞く、それから知る」解説 で詳しく解説しています。
発声器官の弱点は耳で捉えられる
フースラーは、発声器官の非開放性、弱点、故障は、耳で聞き取ることができると考えています。発声器官の状態がよくないと、その影響は声の響きや出方に表れます。たとえば、声が出にくい、喉に余計な力が入りやすい、息の流れが不安定になるといった形で表れます。そのため、自分の声を聞くことは、単に音程や音色を確認するためだけのものではありません。
声を聞くことで、発声器官がどのような状態で働いているかを知る手がかりになります。反対に、耳が発声器官の状態を捉えられないと、声の表面だけを整えようとしやすくなります。フースラーにとって耳で聞くことは、発声器官の弱点を見つけ、開放作業を進めるための重要な入口です。
耳が鈍ると訓練の方向も見えにくくなる
フースラーは、自然に優れた声を持つ歌手でも、発声器官の状態が崩れることがあると考えています。発声器官の状態が崩れると、自分の声を聞く力も鈍りやすくなります。耳が鈍ると、声の響きに表れている発声器官の弱点や故障を捉えにくくなります。その結果、何を変えるべきかが分かりにくくなります。
発声訓練では、ただ声を出すだけでなく、自分の声を聞きながら発声器官の状態を知る必要があります。そのためフースラーは、開放作業はまず聞くことから始まると考えています。耳で発声器官の状態を捉えることが、訓練の方向を見つけるための出発点になります。
発声練習はすみやかに律動的に行う
ここでは、フースラーが発声練習の進め方について述べている部分を解説していきます。フースラーは、発声練習をゆっくり引きずるように行うのではなく、すみやかに、不意打ち的に、律動的に行うことを重視しています。まずは、なぜ筋肉をすみやかに働かせる必要があるのかを確認します。
筋肉はさっと働くことで目覚めやすくなる
フースラーは、筋肉の基本的な動きは、ぴくっと動くことだと考えています。これは発声器官だけに限った話ではなく、筋肉全般の働きについて述べている部分です。フースラーは、この考え方を発声練習にも当てはめています。そのため発声練習では、発声器官まわりの筋肉を、初めからゆっくり長く働かせるのではなく、すみやかに働かせることを重視しています。
フースラーは、すみやかに行われた筋肉の収縮は、しなびた筋肉でも、比較的強直しにくいと考えています。ゆっくり引きずるように働かせると、筋肉は余計な緊張を残しやすくなります。反対に、さっと働かせることで、筋肉は以前からの悪い使い方に引っぱられにくくなります。
その結果、発声器官まわりの筋肉が本来の反応を取り戻しやすくなります。つまりフースラーは、発声練習をすみやかに行うことで、発声器官を目覚めさせやすくなると考えています。
突如として出すことで呼気圧迫を避けやすくなる
フースラーは、発声練習では、声をすみやかに出すだけでなく、突如として出すことも重視しています。突如として出すとは、声を出す前に長く構えすぎず、不意打ち的に声を出すことです。声を出す前に時間をかけすぎると、発声器官まわりに余計な準備が入りやすくなります。
その結果、呼気圧迫のような合併症が起こりやすくなります。
呼気圧迫が入り込むと、息の圧力で喉を働かせようとする状態になりやすくなります。そのため、発声器官が自分から働く前に、息の圧力に引っぱられやすくなります。反対に、突如として声を出すことで、呼気圧迫が入り込む前に発声器官を働かせやすくなります。つまりフースラーは、不意打ち的に声を出すことで、余計な呼気圧迫を避け、発声器官の反応を引き出しやすくなると考えています。
声の出し始めについて詳しく知りたい方は、フースラーメソード徹底解説10:声の出し始めについて|歌うこと9章「アインザッツ」より も参考になります。
律動的な音列が発声器官を動かす
フースラーは、発声練習をすみやかに、不意打ち的に行うだけでなく、律動的に行うことも重視しています。律動的に行うとは、声をだらだら引きずるのではなく、動きのある音列として行うことです。フースラーは、律動的な動きによって、発声器官の奥にある活動力が呼び起こされると考えています。反対に、ゆっくり引きずるような練習では、筋肉の動きが束縛されやすくなります。
筋肉の動きが束縛されると、発声器官まわりに余計な緊張が残りやすくなります。そのため、ゆっくり長く持ちこたえる声よりも、すみやかで律動的な音列の方が、喉に余計な力が入りにくくなります。フースラーは、昔の優れた流派でも、流れるようなパッセージを使って、のどを働かせていたと見ています。つまりフースラーは、律動的な発声練習によって、発声器官まわりに余計な緊張を残しにくい状態へ導きやすくなると考えています。
声を大切にしすぎる練習が発声器官を弱くする
ここでは、フースラーが批判している、声を大切にしすぎる練習について解説していきます。フースラーは、発声器官を弱く使い続けることが、かえって発声器官の働きを鈍くすると考えています。次に、なぜ弱い声だけの練習が発声器官を不活発にしやすいのかを確認します。
弱声だけの練習は発声器官を不活発にする
フースラーは、声を大切にするつもりで弱い声ばかり練習することを批判しています。弱い声だけで練習を続けると、喉頭、声帯、喉頭懸垂機構、呼吸器官を十分に働かせる機会が少なくなります。発声器官を十分に働かせない状態が続くと、筋肉の反応や張りが弱くなりやすくなります。その結果、発声器官は不活発になり、声を作るための働きが鈍くなっていきます。
フースラーは、このような練習を、発声器官を守っているように見えて、実際には発声器官の弾力を失わせるものとして見ています。発声器官の弾力が失われると、いざ強い声や大きな声が必要になったときに、喉頭、声帯、喉頭懸垂機構、呼吸器官が十分に働きにくくなります。そのため、弱声だけの練習は、弱い声を整える練習ではなく、発声器官をさらに弱くしてしまう危険があります。
つまりフースラーは、声を大切にすることと、発声器官を働かせないことを同じにしてはいけないと考えています。
伸縮自在な状態は何もしないことから生まれない
フースラーは、発声器官をよい状態にするには、ただ何もしないだけでは足りないと考えています。しなびた筋肉は、弱く使い続けると、かえって余計な緊張を起こしやすくなります。反対に、筋肉は、ある程度しっかり働いたあとで、余計な緊張が抜けやすくなります。そのためフースラーは、緊張したことのないものは、十分にゆるむこともできないと考えています。
発声器官まわりの筋肉は、働かせないだけでよい状態になるものではなく、動きの中で反応を取り戻していくことが必要です。ここで大切なのは、喉に余計な力を入れることではなく、発声器官を必要な範囲で働かせることです。発声器官が適切に働くことで、筋肉は伸び縮みしやすい状態に近づいていきます。つまりフースラーは、伸縮自在な状態は何もしないことからではなく、発声器官を働かせる練習の中で作られると考えています。
強く働いたあとに余計な力が抜けやすくなる
フースラーは、しなびた筋肉では、弱い働きよりも、ある程度しっかりした働きの方が安全に行いやすいと考えています。弱く働かせるだけでは、筋肉に必要な張りが十分に生まれにくくなります。必要な張りが生まれないまま声を出そうとすると、発声器官まわりに余計な緊張が残りやすくなります。反対に、筋肉がある程度しっかり働くと、そのあとで余計な緊張が抜けやすくなります。
ただし、ここでいう強く働くとは、喉に余計な力を入れて声を押し出すことではありません。発声器官まわりの筋肉が、必要な範囲で反応することを指しています。そのためフースラーは、弱く守る練習だけでは、発声器官の働きは戻りにくいと考えています。発声器官を必要な範囲で働かせることで、筋肉は余計な緊張を残しにくい状態へ近づいていきます。
声区と発声器官の一部は交替させながら練習する
ここでは、フースラーが声区や発声機能の練習について述べている部分を解説していきます。フースラーは、声区や発声機能を一つに偏らせて練習することを危険だと考えています。高音域と低音域、また個々の機能は、一つに偏らせるのではなく、交替させながら練習する必要があります。まずは、なぜ高音域と低音域を両極から扱う必要があるのかを確認します。
高音域と低音域は両極から扱う
フースラーは、高音域と低音域の機能は、両極から練習する必要があると考えています。声帯には、高音域のための働き方と、低音域のための働き方があります。高音域では、声帯を伸ばす方向の働きが関わります。反対に、低音域では、声帯が短く厚くなる方向の働きが関わります。
そのため、高音域と低音域は、同じ延長線上にあるものとしてだけ扱うことはできません。
中音域から少しずつ上下へ広げるだけでは、高音域と低音域それぞれに必要な機能が十分に目覚めにくくなります。フースラーは、声区を最終的に統合させるためにも、まずは両極の機能をそれぞれ練習する必要があると考えています。つまり、高音域と低音域を両方から扱うことは、声区を分けるためではありません。最終的に声区を連動させるために必要な練習です。
声区の考え方については、フースラーメソード徹底解説⑧声区(レジスター)について|歌うこと7章「声区」より で詳しく解説しています。
発声器官の一部を続けすぎると働きが偏る
フースラーは、ひとつの声区や、発声器官の一部だけを長く練習しすぎることを危険だと考えています。発声器官では、複数の部分が協力して声を作っています。その中のひとつだけを強く働かせ続けると、ほかの部分の働きが弱くなりやすくなります。発声器官の一部が強調されすぎると、発声器官全体の働きが偏ってしまいます。その結果、声区が分かれすぎたり、発声器官どうしの連動が乱れたりしやすくなります。
フースラーは、歌うために必要な働きを目覚めさせるには、絶えず交替させながら練習する必要があると考えています。つまり、ひとつの声区や発声器官の一部だけを集中的に鍛えると、発声器官全体の働きは整いにくくなります。一方で、声区や発声器官の一部を交替させながら練習することで、発声器官全体の働きが偏りにくくなります。
練習方法を変えることで新しい刺激が入る
フースラーは、練習する声区や発声器官の一部だけでなく、練習方法も変える必要があると考えています。同じ練習を同じやり方で続けすぎると、発声器官への刺激が単調になりやすくなります。フースラーは、声のイメージ、耳、発声器官をつなぐ仕組みは疲れやすいと考えています。そのため、同じ刺激だけが続くと、発声器官は鈍くなりやすくなります。
一方で、練習の手段を変えることで、発声器官に新しい刺激が入ります。新しい刺激が入ると、発声器官はこわばった状態に陥りにくくなり、生気のある反応を保ちやすくなります。ただし、これは教師を次々と変えることをすすめているわけではありません。
大切なのは、一つの指導方針の中で練習方法を変えることです。
機械的な練習は歌う力を鈍くする
ここでは、フースラーが批判している機械的な練習について解説していきます。フースラーは、発声練習がただのくり返しになると、発声器官の生きた反応が鈍くなると考えています。練習では、音列をなぞるだけでなく、耳と発声器官を働かせる必要があります。まずは、同じ練習のくり返しが、なぜ発声器官を鈍くしやすいのかを解説します。
同じ練習のくり返しが発声器官を鈍くする
フースラーは、発声練習が機械的になることを強く批判しています。機械的な練習とは、決まった音列や発声練習を、意味を考えずにくり返すような練習のことです。そのような練習では、声のイメージや耳が十分に働きにくくなります。耳が働かないまま音列だけをなぞると、発声器官も生きた反応を起こしにくくなります。
発声器官は、ただ同じ動きをくり返すだけでは、歌うための反応を取り戻しにくくなります。むしろ同じ刺激が続くことで、発声器官の働きは鈍くなりやすくなります。フースラーにとって訓練とは、同じ動きを反復することではなく、発声器官の働きを引き出すことです。つまり、同じ練習をくり返していても、耳と発声器官が働いていなければ、発声器官は目覚めるどころか鈍くなってしまいます。
テクニックは未完成な器官を助ける道具にすぎない
フースラーは、歌におけるテクニックを、発声そのものの中心に置いていません。テクニックは、発声器官がまだ十分に働いていない歌手を助けるための道具として扱われています。発声器官が未完成な状態では、求められる声や音楽的な課題に対して、技術的な助けが必要になることがあります。しかし、テクニックばかりに頼ると、発声器官そのものの働きが目覚めにくくなります。
発声器官の働きが十分に開放されていれば、歌うときに細かな技術を強く意識し続ける必要は少なくなります。フースラーは、完全な歌手は、発声器官の内側から起こる反応によって歌うと考えています。そのため、テクニックは歌うことの目的ではなく、まだ十分に働いていない発声器官を一時的に助けるためのものとして位置づけられます。つまりフースラーは、テクニックを使うことよりも、発声器官そのものが歌うために働ける状態へ近づくことを重視しています。
アンザッツの必要性については、フースラーメソード徹底解説⑨アンザッツは本当に必要か?|歌うこと8章「アンザッツ」より も参考になります。
歌う喜びが発声器官の働きを呼び起こす
フースラーは、技術的な練習ばかりが続くと、発声器官の自然な働きが損なわれやすいと考えています。発声器官は、ただ技術的な手順をこなすだけでは、歌うための生きた反応を取り戻しにくいものです。歌うときには、声に魂を吹き込むような要素も必要になります。これは、発声器官を本来の性質に戻すために大切なものとして扱われています。またフースラーは、歌う喜びもまた、創作する力を目覚めさせると考えています。
声の美しさを求めることによって、発声器官の中から大切な働きが呼び起こされることがあります。そのため、訓練では技術だけに偏らず、歌う喜びや声の美しさへの感覚も失わないことが重要になります。つまりフースラーは、発声訓練を単なる技術練習としてではなく、歌う衝動によって発声器官の働きを呼び起こすものとして考えています。
声の美しさについてのフースラーの考え方は、フースラーメソード徹底解説13「美しい声」は好みの問題か、それとも科学で実証でできるのか?歌うこと第12章 声の美しさ で詳しく解説しています。
まとめ|訓練とは発声器官を目覚めさせること
第15章でフースラーが述べている訓練の原則は、単に声を出す練習の方法ではありません。フースラーは、発声器官がどのような状態で働いているかを重視しています。優れた歌手の喉は、自発的に働きながら、呼吸器官との連動を失わないものです。一方で、発声器官の状態が悪いと、神経支配の悪さ、筋の張力の弱さ、各発声器官の協調不足が起こりやすくなります。そのため訓練では、まず聞くことによって、発声器官の状態を捉える必要があります。
そのうえで、すみやかに、不意打ち的に、律動的に練習することで、発声器官の反応を引き出していきます。弱い声だけで守る練習や、同じ練習を機械的にくり返す練習は、発声器官の働きを鈍くする危険があります。また、声区や発声器官の一部は、一つに偏らせず、交替させながら練習する必要があります。テクニックは必要な場面もありますが、最終的に大切なのは、発声器官そのものが歌うために働ける状態へ近づくことです。つまりフースラーにとって発声訓練とは、発声器官を目覚めさせ、歌うための働きを取り戻していく作業です。
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フースラーメソードを徹底解説①|著書「うたうこと」の基礎原理を詳しく解説
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