ボイストレーナー小谷です。今回のは喉頭懸垂機構の解説です。
前回の「フースラーメソード徹底解説④正しい声門閉鎖」を未読の方は是非下記からご確認ください。
https://voitoreyktn.com/voice-production-theory/post-18278/
喉頭懸垂機構はアンザッツと肩を並べるフースラーメソッドの柱として、特に日本では語られているように思います。
しかし、私は以前から喉頭懸垂機構とアンザッツがフースラーメソッドの柱であるかのように語られる風潮に疑問を持っていました。
このシリーズの1回目で私はフースラー高弟のリンデンバウム氏のもとで学ばれた森昭彦先生の流派の方々から数年フースラーメソッドを学んだとお伝えしました。
その学びの柱は喉頭懸垂機構およびアンザッツのトレーニングではなく、呼吸のトレーニングで、アンザッツは補助的な練習でした。それは当時の私のレベルが低すぎたのかもしれません。しかし喉頭懸垂機構およびアンザッツがフースラーメソッドの柱であるならば、少しずつアンザッツ練習が増え、呼吸のトレーニングの割合が減っていくように思うのですが、いつまで経っても、ひたすら呼吸のトレーニング。時には、もはやどこが筋肉痛になっているか分からなくなるような呼吸筋の筋トレもありました。
そういった私の個人的な経験もあり、昨今の特に日本におけるフースラーメソッドの喉頭懸垂機構とアンザッツがフースラーメソッドの柱であるかのように語られる風潮に疑問を持ち続けていました。
そして改めてフースラー著書「歌うこと」を再読し、今回解説する「喉頭懸垂機構」の章で 私の疑問がまず一つ紐解かれていきました。
目次
フースラーが解説する懸垂機構の仕組み
「喉頭懸垂(保持)機構」とは何か
フースラーが言う「喉頭懸垂(保持)機構」とは、喉頭のまわりにある筋肉(外喉頭筋)が喉頭を正しい位置に保持するしくみのことです。
喉頭のまわりには、いくつもの筋肉(外喉頭筋)があり、それらの筋肉が喉頭を上下に引っ張られらていることで、正しい位置に保持されています。
いくつもの喉頭を引っ張る筋肉(外喉頭筋)が同時に連動して動くことで、喉頭を安定的に正しい位置に保持されます。
この喉頭を正しい位置に保持するから喉頭の周りの筋肉の動きを、フースラーは「喉頭懸垂機構」と呼んでいます。
フースラーのいう喉頭懸垂機構の筋肉
フースラーは、喉頭懸垂機構の筋肉(外喉頭筋)について、具体的な名前を挙げて説明しています。
まず、喉頭を上に引く「引上げ筋(挙上筋)」として挙げられているのが、甲状舌骨筋、口蓋喉頭筋、そして茎突咽頭筋です。
甲状舌骨筋は、甲状軟骨と舌骨をつなぐ筋肉です。
口蓋喉頭筋は、軟口蓋と喉頭をつなぐ筋肉です。
茎突咽頭筋は、頭蓋底の茎状突起から咽頭を通って甲状軟骨に向かう筋肉です。
これらが働くと、喉頭は上方へ引かれます。
一方で、喉頭を下に引く「引下げ筋(降下筋)」もあります。
代表的なものが胸骨甲状筋と輪状咽頭筋です。
胸骨甲状筋は、胸骨と甲状軟骨をつなぐ筋肉で、前下方へ引きます。
輪状咽頭筋は、輪状軟骨の後下方から食道入口部を取り囲み、喉頭を後下方へ引く働きを持ちます。さらに、肩甲舌骨筋や胸骨舌骨筋といった、舌骨を下に引く筋肉も間接的に喉頭の位置に影響します。舌骨が下がれば、舌骨とつながっている喉頭も一緒に下方へ引かれるからです。また、気管は下方へ、食道は後下方へ、構造的なつながりの中で喉頭に影響を与えます。
ただし、これらの筋肉は意識して一つずつ動かせるものではなく、身体の働きの中で自然に関与するものだとフースラーは説明されています。
「引上げ筋」と「引下げ筋」の拮抗運動が、喉頭の位置を決める
フースラーは、喉頭の位置は喉頭懸垂機構の「上に引く力」と「下に引く力」が同時に動くことで決まる、と考えています。
喉頭懸垂機構は喉頭を上に引く筋肉と、下に引く筋肉があります。
ここで重要なのは、どちらか一方だけが強く動かす事ではありません。
上に引く力と下に引く力が同時に動き、バランスよく引っ張りあっていると、喉頭はちょうどよい位置に安定します。
この上下にバランスよく引っ張り合っている状態を拮抗運動といいます。
つまり喉頭懸垂機構の引上げ筋と引下げ筋の両方の力が自然に同時に働き、バランスよく引っ張りあっている状態が喉頭懸垂機構が機能している状態であるという事です。
そしてフースラーが伝えたいのは、喉頭懸垂機構の引上げ筋と引下げ筋のどちらか一方を強くすることではなく、このバランスよく引っ張りあっている状態で生まれる喉頭の位置の安定こそが、正しい発声の土台になるということです。
フースラーが解説する懸垂機構の効果
良い高音が出ている時は喉頭懸垂機構が機能している
フースラーは良い高音が出ている時、軟口蓋がしっかり持ち上がる感覚があると述べています。
そして同じ瞬間に、喉頭は下に引かれるような感覚が起こる、ともフースラーは言います。
フースラーは、この軟口蓋がしっかり持ち上がる感覚と喉頭は下に引かれるような感覚の 連動こそが、喉頭懸垂機構における拮抗運動の働きだと考えています。
上に引く力(軟口蓋が持ち上がげる筋肉)と、下に引く力(喉頭を下に引く筋肉)が引っ張り合っている状態です。
その結果、口の奥は自然に広がりながら、喉頭は無理に持ち上がらず安定します。
これが高音で最もよい状態だ、というわけです。
歌手が「あくびの形」を練習するのは、軟口蓋を持ち上げる筋肉と、喉頭を引下げる筋肉の自然な拮抗運動を、確認するためです。
決して喉頭を無理やり動かすのではなく、引下げ筋と引上げ筋が同時に自然に目覚める状態を体に再現することが目的なのです。
フースラーは、声帯の損傷よりも懸垂機構の働きが重要な場合があると言っている
フースラーは「医師から“かなりひどく損なわれている”と診断された声帯であっても、喉頭懸垂機構がよく働いているなら、豊かな歌声を保てることがある」。
そしてフースラーは、「声帯が完全に無傷であっても、喉頭懸垂機構が機能していなければ、豊かな歌声になりにくい」とも言っています。
ここで彼が言いたいのは、声帯が“材料”だとしても、それを本当に歌声として機能させる“土台”や“発声器官の連動”が弱ければ、材料が良くても結果が出ない、ということです。
要するにフースラーは、「声帯が無傷かどうか」より先に、「喉頭懸垂機構が、歌うために目覚めているか」を見よ、と言っています。
フースラーが解説する懸垂機構と呼吸の関係
喉頭懸垂機構と呼吸は一見その関わりは薄いように感じます。
しかし喉頭懸垂機構と呼吸の関係性は実は深く切っても切り離せない深い関係性にあります。
その事をフースラーは、「喉頭懸垂機構が胴体と結ばれていること自体に大きな意義がある」という言い方で説明しています。
まず、喉頭懸垂機構は胴体と結ばれていて喉頭懸垂機構の一部は胸骨や鎖骨、舌骨、甲状軟骨、肩甲骨などに付着しています。その事で喉頭懸垂機構は胸郭の状態や姿勢の変化の影響を受けます。
呼吸が整うと胸郭の状態が安定します。
そうすると胸骨や鎖骨に付着している喉頭懸垂機構が動きやすくなります。
また呼吸が整うと、体幹が次第に強くなっていきます。
すると胸や肩、首まわりの無駄な力が抜けていきます。
その結果、姿勢も自然に整ってきます。
姿勢が整うと頭部の位置が安定し、頭が前に突き出たり傾いたりしにくくなります。
すると、舌骨や甲状軟骨に付着する喉頭懸垂機構が動きやすくなり、喉頭懸垂機構の拮抗運動がしやすくなります。
その結果、喉頭の位置も安定しやすくなります。
あまり関係がないように見える喉頭懸垂機構と呼吸ですが、実は喉頭懸垂機構が胴体と結ばれているため密接につながっていてその関係性は深い。
それゆえ、お互いの状態の影響を受けやすいのである。
この事をフースラーは「喉頭懸垂機構と胴体が結ばれている意義」で解説しているのです。
フースラーが解説する懸垂機構と声帯の関係
内喉頭筋だけでは声は不安定
内喉頭筋(声帯を伸ばす・閉じるなどをする筋肉)は、声を出す時にとても大事な働きをしています。
しかしフースラーが強調しているのは、内喉頭筋は「単独では十分に働けない」という点です。
内喉頭筋が十分に働くには、喉頭の位置が安定している必要があります。
喉頭位置が安定してはじめて声帯が調整できる
声帯の長さや厚み、閉じ具合を調整するのは喉の中の筋肉です。
しかし、喉そのものがグラグラしていたら、細かい調整はうまくいきません。
たとえば、カメラの本体が揺れていたら、レンズだけでピントを合わせるのは難しくなります。
それと同じで、喉の位置が安定しているからこそ、声帯は思いどおりに伸びたり、閉じたりできるのです。
これは呼吸も共鳴腔も同じ事が言えます。
フースラーは、喉頭懸垂が働くことで、内喉頭筋に「必要な緊張」が自然に起こる、と述べています。
つまり、先に喉頭位置が整い、その結果として声帯の動きが整う、という順番です。
フースラーにとって「共鳴腔」とは?(懸垂機構と共鳴の関係)
フースラーは、「共鳴腔」を「声帯の上に続く空間(いわゆる共鳴腔、近年で言えば声道)は、解剖学的に“用意された器”として固定で存在するものではない。筋肉が動くことで、そのつど“作られてはじめて成立する成果”であると。
つまり変化しない空間ではなく、呼吸筋や喉頭懸垂機構が連動して動くことで変化する空間という事です。
さらにフースラーは、現場の指導で使われる言い方――「開いたのど」「デックング」「あくびの形」「喉頭の低い位置」「高く当てる」など――を挙げて、
「それらは結局ぜんぶ、喉頭懸垂筋機構が中心となって働いた結果として生まれた“空間”を指している」。
言い換えると、共鳴腔は最初から備わった変化しない空間でもなければ新たに作る空間でもなく喉頭懸垂機構が機能した結果として現れる状態である、ということです。
懸垂機構が機能していない時の症状とその原因
フースラーの指摘「日常生活で使われない筋肉は眠り、機構の土台が損なわれやすい」
フースラーはここで、「喉頭を保持する“懸垂筋の仕組み”は、日常生活ではあまり使われない筋肉を含むため、放っておくと“眠った状態”になりやすい」と言っています。
さらに、「だからといって完全にやせ衰えているとまでは言えないにせよ、全体として神経支配が悪く、忘我の状態(=眠ったような状態)にあるのは確かだ」と続けています。
ここでのポイントは、“筋力低下”というより“使われないこと”です。
フースラーは「喉頭懸垂機構の筋肉を動かす機会が少ない → 神経のつながり(使い方の回路)が鈍る → 喉頭懸垂機構全体の筋肉が連動しない」と考えています。
つまり、喉頭懸垂機構の筋肉は、日常の生活ではあまり使われていないので、失われやすい、という意味です。
フースラーは、「喉頭懸垂機構は放置すると眠る。眠ると、それらの筋肉が連動しなくなる。だから歌唱では、その連動を“目覚めさせ直す”ことが要る」と言っています。
フースラーの指摘「懸垂機構が働かないと声が両極端になる」
フースラーは、「喉頭懸垂(保持)機構が働かないと、声は“つなぎ役”を失って出てくる声は両極端な薄いファルセット(裏声)か歌では使えない胸声(地声)のこの二種類しか出せなくなる。」と言っています。
喉頭懸垂機構が機能していないと薄いファルセット(裏声)と歌では使えない胸声(地声)の極端な2種類の声しか出ないうことです。
つまりフースラーの主張は、「ファルセットと胸声のどちらが良い悪い」ではなく、「懸垂機構が機能しないと、声は極端な2種類の声に割れてしまい、統一された歌声にならない」という一点を強調している、ということです。
これは現代の「ミックスボイスが出せない」問題と同じであるように感じます。
フースラーの指摘 懸垂機能の故障が「だんご声」「白い声」「圧迫声」を生む
フースラーは、この章で「喉頭懸垂(保持)機構」がうまく働かないその典型的な結果が「だんご声」「白い声」「圧迫声」だ、と言っています。
まずフースラーは「だんご声」について、喉頭を引き下げる筋肉が機能していない時に起こると言っています。
喉頭を引き下げる筋肉が機能しないと、その代わりに舌や舌骨まわりの筋が動いてしまいます。(代償行為)
結果として喉頭がガチガチに固まってしまい声が出しにくくなります。
これが「だんご声」になる、という説明です。
ここでフースラーが言いたいのは、だんご声は「舌が悪い」から起きるのではなく、喉頭懸垂機構が機能しなかった結果であるという事です。
またフースラーは「白い声」について、前の「だんご声」のような代償行為ではなく、今度は引上げ筋である甲状舌骨筋が喉頭を上に引き上げすぎる、と言っています。
甲状舌骨筋が喉頭を引き上げすぎると過剰な声門閉鎖になってしまいます。
そうなると引下げ筋や呼吸筋との連動ができなくなります。
そうして出てくる声が「白い声」だ、とフースラーは言っています。
そしてフースラーは「圧迫声」についても言及しています。
引下げ筋が機能しないと、呼気が喉頭の下でせき止められて、喉頭を上へ圧迫する状況になり声帯が伸びなくなる。その結果として共鳴腔も狭くなっていく。
これが「圧迫声」だ、という説明です。
ここでフースラーが強調しているのは、圧迫声は「息が強い」だけの話ではなく、引下げ筋が機能しないことで“呼気が下で詰まる→喉頭を圧迫→声帯が過剰に閉じる→共鳴腔が狭くなる”という悪循環として起きる、ということです。
つまりフースラーは、「だんご声・白い声・圧迫声」は表面の部位(舌・喉・響き)を直す話ではなく、喉頭懸垂機構が働ける条件、を回復させることが先だ、と言っている、ということです。
フースラーが解説する喉頭懸垂機構を回復させる方法
フースラーが考える喉頭懸垂機構の回復の入り口
フースラーは、だんご声や白い声、圧迫声のような崩れた声が出たときに、「舌を柔らかくしよう」とするだけでは根本的な解決にはならないと言っています。
それらは舌の問題に見えるかもしれませんが、本当の原因はそこではありません。
喉頭懸垂機構が機能していない結果だとフースラーは考えています。
その喉頭懸垂機構の回復の入り口をフースラーは「全体の呼吸筋が徹底的に動かされ目覚めさせられることだ」と言っています。
なぜ呼吸筋を徹底的に動かし目覚めさせることが喉頭懸垂機構の回復につながるのでしょうか?
喉頭懸垂機構をだけを動かせれば良いのでは?とお感じの方もいらっしゃるでしょう。
しかしフースラーは繰り返し言っているには「喉頭懸垂機構を部分的に動かしてはいけない」「喉頭懸垂機構が動ける状態を整えることが大切」と言っています。
何より喉頭懸垂機構は意識的に動かすのが難しい筋肉です。
なのでまず喉頭懸垂機構よりも比較的に意識的に動かせる呼吸筋から動かす事から始めます。
喉頭懸垂機構と呼吸の関係性でも説明しましたが、喉頭懸垂機構と呼吸筋は物理的に胴体で繋がっていますので、呼吸筋の影響を喉頭懸垂機構は受けます。
呼吸筋を動かすと呼吸が整い体幹が強くなり、姿勢も整います。
その事で胸骨や鎖骨、舌骨や甲状軟骨に付着する喉頭懸垂機構が動きやすくなります。
すると呼吸と喉頭懸垂機構が自然に連動するようになり発声器官が統一されていきます。
本来、喉頭懸垂機構は呼吸と連動して働きます。
呼吸が訓練によって十分に目覚め、その後、呼吸と喉頭懸垂機構が自然に連動した時、喉頭は正しい位置に保持され安定します。
問題は一部分の硬さではなく、呼吸と懸垂の連動が分断されている事にあります。
そのため、舌だけをゆるめようとしても、全体のしくみは回復しません。
フースラーが重視しているのは、目に見える症状を直すことではなく、呼吸と喉頭懸垂機構の連動を立て直すことなのです。
そして、喉頭懸垂機構が十分に機能し発声器官が統一されれば、声楽発声に必要な呼吸筋のすべてを自動的に同時に連動させることができるとフースラーは述べています。
フースラーの声の問題の診断方法
フースラーは「喉頭懸垂機構の引っぱり方の一つ一つが、声帯の状態、そして共鳴腔が変化する。だから音色も変わる」と言っています。
ではその音色の変化が生まれる具体的な説明をすると
まず、喉頭懸垂機構が喉頭をどの方向へ引っ張るかで、声帯の長さと張り方が変わります・
次に、喉頭の位置が変わると、声帯の上の通り道(咽頭側)の広さ・高さ・奥行きが変わります。そして 喉頭懸垂機構の喉頭を引っ張る方向とそれによる喉頭の位置の違いで声の音色の変化が生まれる、という意味です。
例えば喉頭が上へ強く引かれると、喉頭の位置は高くなり、共鳴腔は狭くなります。
すると音色は、明るい方向になりますが、細く詰まった声なりやすい。
まさに喉締め声の状態です。
こうなる原因は「上へ引く力が悪い」のではなく、下へ引く力の働きが弱く懸垂機能のバランスが崩れている事が原因です。
また喉頭が下へ引かれると、喉頭の位置は低めになり、共鳴腔の奥が開き縦に余裕が生まれます。すると声の音色は、丸い・太い・深みが生まれます
次に喉頭が前へ引かれると、喉の前方に空間ができる感じになりやすい。
結果として、音色は前に集まりやすく、輪郭が立つ、言葉が乗る、抜ける、といった方向に寄りやすい。
ただ、この方向の練習をやり過ぎて他の方向(とくに下方向)とのバランスが崩れると、薄く鋭いだけになり得る、とフースラーは注意しています。
次に喉頭を後ろへ引かれると、共鳴腔の“奥側”が使われやすくなり、深く、暗めで、厚い、響落ち着た響きの方向へ寄りやすい。
一見ここでフースラーが解説しているのは、声の音色の操作法にも感じますが、実は違います。
フースラーはこれまで、喉頭懸垂機構がバランスよく引っ張りあることで喉頭を正しい位置に保持されると言っていました。
フースラーがこの解説で言いたいことは、「喉頭懸垂機構の引っぱり方の一つ一つが、声帯の状態、そして共鳴腔が変化する。だから音色も変わるから、その音色の変化で喉頭懸垂機構がちゃんと機能しているか確認せよ」ということなのです。
フースラーの主張では同じ高さの音でも、喉頭が上方向に偏ると“白く・きつく・狭い”方向に、下後方の成分が入ると“丸く・深く・通る”方向に、前方の成分が入ると“前に集まって言葉が乗る”方向に、後方の成分が入ると“落ち着いて厚い”方向に寄る、という見立てです。
喉頭を一方向に偏って引っぱってるとバランスが崩れ喉頭懸垂機構が機能しなくなります。
なので「今の自分自身の声が、どのような偏りが起きているかを耳で聴いて見抜け」というのがフースラーが言いたいことなのです。
もし今の自分の声が白くきついなら喉頭が下方向に動けていない可能性があるから呼吸やフォームを見直すなど、このような“確認と是正の考え方”を示しているのフースラーのここでの解説です。
結局フースラーは、喉頭懸垂機構の筋肉を直接いじるのではなく、喉頭懸垂機構の拮抗がバランスよく動ける土台を回復せよ、という事を一番言いたいのだと思います。
フースラーが指摘する医師の誤解
フースラーは、医師の誤解が生まれやすい理由を「観察の視点が狭すぎること」に置いています。
フースラーはここで、よくある誤った医師の診断の例として「共鳴腔が狭すぎるから高音が出ない」といった診断の発想を挙げています。
しかしフースラーによれば、そもそも“共鳴腔(声道)”は、解剖学的に「変化しない空間」ではありません
共鳴腔は、喉頭懸垂筋機構を含む発声器官の運動によって変化するものであるという立場です。
だからフースラーは、医師が喉頭鏡で見える「声帯直上の一部分」を静止画のように見て、それで全体を判断すると誤解が起きやすい、と言います。
医師の観察の視点が喉眼鏡で見える声帯のすぐ上の空間に偏り、音響的空間を形作っている“全周”へ視点が向きにくいことが、誤診・誤解の根本原因だ、とフースラーは述べています。
終わりに
まずお伝えしたいのは解説している「歌うこと」は日本語訳版です。
この日本語訳版は正直に申し上げて誤訳が多く、非常に読みにくいです。
それゆえ、本来重要である部分を読み飛ばしてしまうことが多々あるように感じます。
今回解説した「喉頭懸垂機構」について、一見するとこの機構はとても万能で、この機構を使えば呼吸は意識しなくて勝手に連動し、共鳴腔も自然に生まれる。また声帯に損傷があってもこの機構が機能していれば問題なく声を出せる。といった風に読めてしまいます。
非常に読みにくい日本語訳版であるが故にこのように読めてしまう事が昨今のフースラーメソッドの柱は喉頭懸垂機構でありアンザッツであるという風潮になっていったように個人的に感じます。
確かにこの喉頭懸垂機構は非常に重要です。現代のミックスボイスを習得するためにも必要な要素のようにも個人的に感じます。
しかし、フースラーが繰り返し言っているのは、喉頭懸垂機構は意識的に動かしてはいけない。喉頭懸垂機構が働ける条件を整えることが大切。
また喉頭懸垂機構を機能させるその入り口は呼吸筋を徹底的に動かして呼吸筋を目覚めされるのが入り口とまで言っています。
再読して私が感じたことは喉頭懸垂機構は重要である事の記述が多いように思いますのでフースラーは喉頭懸垂機構は重要であると考えていた事は事実であると思います。しかし喉頭懸垂機構のトレーニングだけすれば良いとも言っていません。
むしろ喉頭懸垂機構のトレーニングばかりすることは、フースラーの意に反するようにも思います。彼はこの著書で訓練に関して繰り返し言っているのは、訓練で大切なのはまず訓練の順番、そして発声器官の統一です。
このことを私たちは忘れてはいけないように思います。


